
コーヒーの抽出理論とその変遷(1):コーヒー抽出研究所の設立
コーヒー抽出研究所(CBI)/コーヒー抽出センター(CBC)
アメリカ合衆国の1920年代の交通網の発展と大規模な人口集積、およびスーパーマーケットの増加は、多くの地方ロースターと全国規模のロースターからの供給構造を、合併や大規模なロースターへの移行へと変革した。第二次世界大戦後、この傾向はさらに加速し、テレビ広告への予算拡大と、低品質のコーヒーやロブスタ種を使用した価格競争が激化した。大手スーパーマーケットチェーンがコーヒーを損失補填商品として使用したことによる価格要件、新技術や高度な広告・パッケージングのコスト上昇により、小規模ロースターは、生き残りがますます困難になった。各ロースターが、より安価で低品質のコーヒーで競争を試み、ロブスタ種コーヒーの使用が増加した。製品数の爆発的増加に伴い、スーパーマーケットの棚スペースを確保することは、ますます困難になった。これらの変化は、消費者に供給されるコーヒーの品質の低下を促し、消費者の利益はほとんど考慮されることなく進行した。当然の帰結として、コーヒーの消費量は減少した。
1937年、アメリカ合衆国以南の7カ国のラテンアメリカのコーヒー生産国は、これらの地域産のコーヒーを促進するため、パンアメリカコーヒー局(Pan American Coffee Bureau)を設立した。アメリカ合衆国のコーヒー消費量の減少傾向を逆転させることを目的とし、コーヒーの適切な抽出方法の普及を解決策として提唱した。1952年に開始した200米万ドルの広告キャンペーンを通じて、「コーヒーブレイク」という言葉を一般用語化し、アメリカ合衆国のコーヒー文化に多大な影響を与えた。

そして、コーヒーを毎回おいしく淹れるのはとても簡単です!コーヒー抽出研究所が考案した簡単な手順に従ってください:標準のコーヒー計量スプーン1杯、または平らな大さじ2杯のコーヒーに対し、新鮮な冷たい水3/4(?)カップ使用します。コーヒーメーカーの適切な時間を確認し、その時間を正確に守ってください。コーヒーを沸騰させないでください。もちろん、出来立てをすぐに提供する方がベストですが、もし待つ必要がある場合は、ポットを非常に熱いお湯に浸すか、アスベストパッドの上に置き、非常に弱い火にかけて保温してください。
And it's so easy to make certain your coffee is delicious every time! Just follow the simple directions worked out by The Coffee Brewing Institute: Use one Standard Coffee Measure, or two level tablespoons of coffee to each 3/4? measuring cup of fresh, cold water. Find the right timing for your coffee maker, then always time it exactly. Never let your coffee boil. Of course, it's best if you serve it the moment it's done, but if you have to let it stand, keep it hot by putting the pot in very hot water, or over very low beat on an asbestos pad.
The Coffee Brewing Institute, Inc
同じ1952年、全米コーヒー協会(NCA)(National Coffee Association)は、パンアメリカコーヒー局と提携し、コーヒー抽出研究所(CBI)(Coffee Brewing Institute)を設立した。この組織は、アメリカ合衆国におけるコーヒー業界の調査と消費者の嗜好に焦点を当て、良いコーヒーを淹れるための最適な方法の確立を目指した。そして、コーヒー抽出研究所(CBI)は、消費者のコーヒーに関する苦情の大半が不適切な抽出方法に起因していると考えた。また、全米コーヒー協会(NCA)は、「良いコーヒーには良い抽出が不可欠」(Good Coffee Deserves Good Brewing)というスローガンを考案した。

コーヒー抽出研究所(CBI)の研究所長を務めたアーネスト・E・ロックハート(Ernest E. Lockhart, 1912 - 2006)は、1912年9月10日にアメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストンで生まれた。マサチューセッツ工科大学(MIT)で学び、3つの学位を取得し、1938年に生化学の博士号を取得した。
ロックハートは、スウェーデンのストックホルムにある生化学研究所で1年間の研究員として過ごした後、1939年から1941年にかけて南極点を目指したリチャード・エヴェリン・バード(Richard Evelyn Byrd)少将率いるアメリカ南極探検隊に生化学者として参加した。フォスディック山脈(Fosdick Mountains)にあるロックハート山(Mount Lockhart)は、彼にちなんで名付けられた。
ロックハートは帰国後、マサチューセッツ工科大学(MIT)で食品技術と栄養学の分野で研究と教育のキャリアをスタートさせた。1955年にマサチューセッツ工科大学(MIT)を離れ、コーヒー抽出研究所(CBI)の研究所長に就任した。
1957年に発行された『飲料用コーヒー中の可溶性固形分をカップ・クオリティの指標として』(原題:The Soluble Solids in Beverage Coffee as an Index to Cup Quality)では、コーヒーに含まれる可溶性固形分を品質の指標とするなど、当時最先端のコーヒー研究のいくつかにおいて指導的役割を果たした。
ロックハートはこの論文で、コーヒーのカップ・クオリティは、液体中に溶解したコーヒー粉の成分の量(総溶解固形分(TDS)(Total Dissolved Solids))と関連すると提唱した。多くの場合、総溶解固形分(TDS)は、液体中に溶解したコーヒー粉の成分の割合(収率(EY)(Extraction Yield))と関連している。そして、総溶解固形分(TDS)と収率(EY)は、コーヒー1単位あたりに使用される水の量(抽出比率(BR)(Brew Ratio))と関連する。

この関連性を図示したコーヒー抽出コントロールチャート(BCC)(Coffee Brewing Control Chart)は、縦軸に総溶解固形分(TDS)、横軸に収率(EY)をとり、抽出比率(BR)がグラフの線を決定する。これにより、総溶解固形分(TDS)、収率(EY)、抽出比率(BR)の3つの抽出パラメーターを関連づけ、定量的な評価を可能とする手法を提供した。
ロックハートは、収率(EY)が18%~22%、総溶解固形分(TDS)が1.15%~1.35%の範囲が、理想的で最適なバランス(IDEAL Optimal Balance)だと提唱した。一方で、薄く弱いコーヒーは総溶解固形分(TDS)が低い傾向にあり、濃厚で強いコーヒーは総溶解固形分(TDS)が高い傾向にある。同時に、プロファイルがアンダーであったり、スイートネスが不足するバランスの悪いコーヒーは、理想値より低い収率(EY)を示す傾向にあり、ビターが強いコーヒーは理想値より高い収率(EY)を示す傾向にある。このチャートは、フィルターにもエスプレッソにも応用可能である。
これらの数値は、当時の業界関係者や消費者によって支持された。
これらのグループが、消費者が最も好むコーヒーの化学的特性と抽出条件について行った研究結果の類似性は、単なる偶然とは考えにくい。これらの結果は、コーヒーと飲食業界の専門家たちが、全国でコーヒー抽出センターが主催した抽出デモンストレーションを観察し、推奨される手順に従って抽出されたコーヒーの味と、水で薄められたものや過剰抽出されたものとの比較を行う機会を得たことで、多くのコーヒーの専門家と飲食店経営者の判断によって支持されている。
The similarity between the findings of these groups working on the chemical characteristics and preparative requirements of a cup of coffee that is most acceptable to a consumer, is hardly coincidental. These results have been supported by the judgment of many coffee and restaurant men, who have watched the brewing demonstrations sponsored by the Coffee Brewing Center throughout the country, and who have had an opportunity to compare the flavor of coffee prepared according to recommended procedures against watered or over extracted brews.
The Soluble Solids in Beverage Coffee as an Index to Cup Quality
しかし、ロックハートがこの論文の要約でまず述べているのは、「コーヒー飲料やその他の食品の品質や許容度を把握することは非常に難しい(The quality or acceptability of coffee beverage or any other food product is very difficult to describe or measure)」ということである。品質を単一の数値で判断することは非常に難しいというその後の指摘は、すでにここで見越されている。
1959年に発行された『コーヒー・ハイドロメーター』(原題:Coffee Hydrometer)では、コーヒーの総溶解固形分(TDS)を測定する実用的な試験方法を紹介した。この試験は手間がかかり、高価な機器を必要とし、変換表とグラフのセットを要した。この試験は、総溶解固形分(TDS)の観点から理想的なカップは、コーヒー1ポンド(約453g)に対して2.25ガロン(8.51625ℓ)の水で抽出されるとした。
コーヒーの抽出科学に関心を持つコーヒーの職業人が増えるにつれ、コーヒー抽出研究所(CBI)は正式な業界研修プログラムを設立し、これがコーヒー抽出センター(CBC)(Coffee Brewing Center)の設立につながった。1963年に、コーヒー抽出研究所(CBI)はコーヒー抽出センター(CBC)に移管し、ニューヨーク市に移転した。コーヒー抽出センター(CBC)は、ジェーン・ローガリー(Gene Loughery)が所長に就任し、後にケン・バーグス(Ken Burgess)が引き継ぎ、ミズーリ州カンザスシティのミッドウェスト・リサーチ・インスティテュート(Midwest Research Institute)と協力して、コーヒー抽出研究所(CBI)が策定した抽出基準の普及を飲食業界で推進した。コーヒー抽出センター(CBC)は、1960年代後半まで週次講座を継続し、ブラジルやコロンビアなどのコーヒー生産国から多額の資金提供を受けていた。最終的に資金が枯渇し、1975年までにコーヒー抽出センター(CBC)は活動を終了した。
資金を提供していたラテンアメリカのコーヒー生産国は、国際コーヒー機関(ICO)(International Coffee Organization)が存在する以上、この種の業務は生産国の特定のグループではなく、国際機関が担うべきだと考えた。そして、国際コーヒー機関(ICO)は、コーヒー開発グループ(CDG)(Coffee Development Group)を設立した。同グループは、目的は多少異なっていたものの、コーヒー抽出研究所(CBI)、そして後にコーヒー抽出センター(CBC)が開始・継続した業務の一部を引き継いだ。
コーヒー抽出研究所(CBI)とコーヒー抽出センター(CBC)は、その活動期間中、専門誌への寄稿や独立した出版物、科学文献において多様なレポートを発行してきた。研究テーマには、抽出の基本原則、水の硬度、温度、抽出時間、挽き目、抽出強度と濃度、収率、抽出機器の品質などが含まれている。コーヒー抽出センター(CBC)はまた、「ゴールデンカップ賞(Golden Cup Award)」の創設者であり、飲食店における適切な抽出技術を促進するためのトレーニングを提供した。