コスタリカのコーヒー産業とスターバックス
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コスタリカのコーヒー産業とスターバックス

サンタ・エドゥヴィヘス社とスターバックス

ロドリゴ・バルガスが経営する「サンタ・エドゥヴィゲス」社は、コスタリカ最大級の家族経営企業の一つであり、活火山ポアス山の山腹に広がる32の農園を擁し、コーヒー農園の総面積は3,900エーカー以上に及ぶ。

今年、3代続くコーヒー農家のバルガス氏は、自身の農園で収穫された700万ポンド以上のコーヒー豆のうち、70%をスターバックスに販売する予定だ。

バルガスは、スターバックスが大量のスペシャルティコーヒー豆を購入し、「カフェ・プラクティス」と呼ばれる一連の規制を課したことが、コスタリカのコーヒー産業を救ったと確信している。

Rodrigo Vargas' company, Santa Eduviges, is one of the largest single-family owned operations in Costa Rica with 32 farms, totaling more than 3,900 acres of coffee fields spread out on the hillsides of the active Poas Volcano.

This year, Vargas, a third-generation coffee farmer, will sell 70 percent of the more than 7 million pounds of beans harvested on his farms to Starbucks.

Vargas believes that Starbucks, purchasing huge quantities of specialty beans and requiring a set of regulations called Cafe Practices, saved the coffee industry in Costa Rica.

Santa Eduviges

1993年、コスタリカ中部アラフエラ州の高地にあるロドリゴ・バルガスの農園を、当時まだ世界的企業へ成長する途上にあったスターバックスの担当者が訪れた。バルガスにとって「スターバックス」は聞いたこともない名前だった。しかし、その訪問は後に、彼の農園だけでなく、コスタリカのコーヒー産業の進路を変える出来事となった。

1990年代後半から2000年代初頭にかけて、世界のコーヒー市場は深刻な危機に陥った(第二次コーヒー危機)。背景には、ブラジルの増産と、ベトナムが世界有数の生産国へ急成長したことによる供給過剰があった。2001年10月にコーヒー価格が1ポンド39セントを下回る歴史的安値を付けた。国際コーヒー機関(ICO)(International Coffee Organization)は2002年、世界生産が約1億1300万袋に達する一方、消費は約1億600万袋にとどまり、過剰供給が価格危機を招いていると指摘している。

この危機は、コスタリカのように高品質なアラビカ種を生産してきた国にとっても深刻だった。安価な豆が世界市場に流れ込むと、品質の高い豆まで一括して低価格で取引される圧力を受ける。ニューヨーク市場で1袋あたり約60ドル、時には38ドルまで下落した時期に、スターバックスはバルガスらに100ドル以上を支払っていた。つまり同社は、単に「買い手」だったのではなく、品質に対してプレミアムを支払う安定した販路となっていた。

バルガスの経営するサンタ・エドゥヴィゲスは、ポアス火山の斜面に広がる肥沃な土地でコーヒーを栽培してきたコスタリカ最大級の個人経営企業の一つだった。32の農園を擁し、コーヒー農園の総面積は3,900エーカー以上に及んでいた。スターバックスとの取引が深まるにつれ、彼は農園の25%を、より優良なアラビカ種の品種に植え替えた。1998年には120万ポンドをスターバックスに販売し、やがて700万ポンド超の収穫のうち70%を同社に売るまでになった。

スターバックスの影響は、価格だけではなかった。同社はコスタリカの生産者に対し、量より質を重視する方向へ強い圧力をかけた。2004年には、環境団体コンサベーション・インターナショナルと共同で、C.A.F.E. プラクティス(C.A.F.E. Practices)(Coffee and Farmer Equity Practices)を正式に開始した。これは、経済的透明性、労働環境、環境保全、品質などを評価する第三者検証型の調達基準で、業界初期の倫理的調達基準の一つであった。

さらにスターバックスは、サンホセ近郊にファーマー・サポート・センター(Farmer Support Center)を開設し、農学者を通じて生産者への技術支援を行った。コスタリカの同センターは2004年に設けられ、C.A.F.E. プラクティス(C.A.F.E. Practices)の運用を支えるとともに、農園管理、土壌保全、病害対策、品質向上に関する助言を生産者に提供した。後にこの拠点は、スターバックスが2013年に取得した研究農園ハシエンダ・アルサシア(Hacienda Alsacia)とも結びつき、コーヒーさび病や気候変動に対応する品種の研究・普及を進める拠点としての役割も担うようになった。

もっとも、こうした取り組みがすべての生産者に無条件で受け入れられたわけではなかった。C.A.F.E. プラクティス(C.A.F.E. Practices)は、品質、労働環境、環境保全、土壌管理などを包括的に評価する制度であったが、その基準を満たすには生産者側にも一定の負担が生じた。たとえば、日陰樹の導入や水路の整備、浸食防止策、労働者の住環境改善などには費用と手間がかかった。また、湿気の多い地域では、日陰樹が真菌の発生を助長する場合もあり、国際的な基準が地域ごとの農学的条件と必ずしも一致しないこともあった。さらに、生産者の中には、認証を取得してもスターバックスによる購入が保証されるわけではないことに不安を抱く者もいた。

しかし、スターバックスの認証を受けた生産者は、必ずしも同社に独占的に販売する必要はなかった。むしろ、C.A.F.E. プラクティスに対応していることは、他の買い手に対しても品質や持続可能性を示す材料となり、新たな販路を開く可能性を持っていた。長期的には、適切な土壌保全や環境に配慮した肥料の使用、健全な樹木管理によって、農園の生産性を安定させ、過剰な化学肥料や農薬への依存を抑える効果も期待された。

このように、スターバックスは単なる大口の買い手にとどまらず、価格、品質基準、技術支援、販路形成を通じて、コスタリカのコーヒー生産のあり方に大きな影響を及ぼした。同社の関与は、生産者に新たな負担を課す側面もあったが、同時に、コスタリカのコーヒーを「安く大量に売る」商品から、「高品質で持続可能な価値を持つ」商品として位置づけ直すきっかけとなった。

ハシエンダ・アルサシア

アルフレド・ロバート・ポリーニ(Alfredo Robert Polini)所有時代のハシエンダ・アルサシア社(Hacienda Alsacia S.A.)は、ボアス火山の麓、アラフエラ州アラフエラ郡サバニージャ地区に位置する農業会社であった。同社は、コーヒー農園であると同時にベネフィシオ(精製所)を備えた事業体でもあった。

アルフレド・ロバート・ポリーニは、農学技師であり、コーヒー、サトウキビ、ブロッコリー、フェルン、酪農、ジャガイモなど、複数の農業分野に関わっていた。また、全国農業・農工業会議所やコーヒー関連組織にも関与し、2001年前後にはコスタリカの農牧大臣も務めていた。ハシエンダ・アルサシア社は、経験豊かな農業実業家によって経営されていた輸出志向の農業会社であった。

2000年代前半、世界のコーヒー市場は深刻な価格低迷を経験していた。この時期、コスタリカの多くのコーヒー生産者は、単に量を生産するだけでは十分な収益を得にくくなり、品質向上、精製技術、輸出市場との結びつきがより重要になっていった。

そのような状況の中で、ハシエンダ・アルサシア社は、2005年に農園内のベネフィシオを整備した。この精製所は、収穫されたコーヒーチェリーを処理し、選別し、輸出に適した品質へ仕上げるための設備であった。グアルディオラ乾燥機、選別機、乾燥パティオ、搬送設備、燃焼炉などを備えており、当時としては近代的な精製施設であった。

同じ2005年、ハシエンダ・アルサシア社は、スターバックスとの取引関係を始めた。スターバックスはすでにコスタリカで高品質コーヒーを調達しており、同社が求める品質基準や環境・社会基準に合う農園との関係を広げていた。ハシエンダ・アルサシア社のコーヒーも、検査や基準を経て、アメリカ合衆国向けに輸出されるようになったとされる。

この時期のハシエンダ・アルサシア社は、スターバックスだけでなく、ピーツ・コーヒー・アンド・ティーにもコーヒーを販売しており、アメリカ合衆国のスペシャルティコーヒー市場、あるいはグルメコーヒー市場に接続していた。

ハシエンダ・アルサシア社では、輸出向けと国内向けでコーヒーの選別も行われていた。精製後の豆は重さや品質によって分けられ、より品質の高いものが輸出用に回され、その他のものが国内市場向けに販売された。

2007年頃から、ハシエンダ・アルサシア社は自社農園で収穫したコーヒーだけでなく、他の農園で収穫されたコーヒーの精製も請け負うようになった。これにより、同社は自社農園の生産物を処理するだけでなく、地域のコーヒー精製機能を担う事業者としても活動するようになった。

同じ時期、農園の一部はコーヒーからフェルン類の栽培へ転換した。フェルンは観賞用植物として輸出される農産物であり、コーヒー価格が不安定な時期に、収益源を分散する役割を持っていたと考えられる。したがって、ポリーニ所有時代後半のハシエンダ・アルサシア社は、コーヒー栽培・精製・輸出、他農園分の精製受託、フェルン栽培を組み合わせた農業会社であった。

2004年以降、スターバックスはC.A.F.E. プラクティスの調達基準を本格的に導入していた。この基準は、コーヒーの品質だけでなく、経済的透明性、労働環境、環境保全、農園管理などを評価するものであった。ハシエンダ・アルサシア社は、スターバックスとの取引を行う中で、こうした基準に沿った農園管理や精製工程を整えていった。

2013年度第3四半期に、当社はコスタリカにあるコーヒー農園の全株式を、現金810万ドルで取得した。

In the third quarter of fiscal 2013, we acquired 100% ownership of a coffee farm in Costa Rica for $8.1 million in cash.

UNITED STATES SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION Washington, DC 20549 Form 10-K

その後、2013年にスターバックスはコスタリカのコーヒー農園を取得した。同社の報告書では、2013年度第3四半期に、コスタリカのコーヒー農園の100%所有権を810万ドルで取得したと記されている。後年のスターバックス自身の説明では、この農園がハシエンダ・アルサシアであったことが明らかにされている。

この取得によって、ハシエンダ・アルサシア社は、ポリーニ所有の農業会社から、スターバックスが所有・運営する農園へと移行した。スターバックスはこの農園を、自社にとって初めて、かつ唯一の自社運営コーヒー農園として位置づけた。スターバックス取得後のハシエンダ・アルサシアは、コーヒー研究、生産者支援、品種開発、病害対策、気候変動への対応を行う拠点となった。

スターバックスは、ハシエンダ・アルサシアをコスタリカのファーマー・サポート・センターと結びつけ、農学的な研究と生産者支援の拠点として整備した。ここでは、コーヒーさび病への耐性を持つ品種、気候変動に対応しやすい品種、収量と品質を安定させる栽培方法などが研究されるようになった。また、生産者向けの研修や技術支援も行われるようになった。

さらに、スターバックスは、ハシエンダ・アルサシアで得られた知見や品種を、自社の調達網に関わる生産者へ共有する方針を取った。2016年以降、同農園はオープンソース型の農学的取り組みの拠点として説明されるようになり、耐病性や気候耐性を持つ種子や苗木の普及にも関わるようになった。2023年には、コスタリカのC.A.F.E. プラクティスに参加する生産者に対して、ハシエンダ・アルサシアで開発された苗木を無償配布したことも公表されている。

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