グアテマラの8つのコーヒー生産地域とそれぞれの特徴
グアテマラのコーヒーの歴史
グアテマラのコーヒーは、1700年代半ばに、ラ・アンティグア・グアテマラにあるイエズス会修道院の観賞用植物として最初に紹介されました。1832年に、政府は免税とインセンティブを与えることでコーヒー生産を推奨しました。当時はそのほとんどが国内で消費されていましたが、1850年代以降に最初の輸出が記録されています。イギリスで人工染料が発明されたことにより、グアテマラのインディゴとコチニールの輸出経済は打撃を受けました。その代替作物として、コーヒー生産が急増しました。
19世紀後半に、コーヒー生産は全国に広がっていきました。20世紀に入ると、グアテマラのコーヒーの品質が高く評価され始め、いくつかの農園はアメリカ合衆国やヨーロッパで特別賞を受賞しました。1920年頃に、アメリカ合衆国がグアテマラのコーヒーの主な買い手となりました。
1928年に、ラサロ・チャコン・ゴンザレス(Lázaro Chacón González)政権の下、コーヒー政策の管理を支援するためのセントラル・オフィスが設立されました。この組織は、政府、農業協会連合、グアテマラ商工会議所の代表者で構成されていました。
1960年に、地元産業の競争力向上を支援することを目的に、グアテマラ全国コーヒー協会(アナカフェ)(Anacafé)(英語:Guatemalan National Coffee Association、スペイン語:Asociación Nacional Guatemalteca de Café)が設立されました。
*アナカフェ(Anacafé)の設立を1969年と記述しているところが多く見受けられますが、1960年の設立です。
1962年から1989年まで、国際コーヒー市場では、国際コーヒー協定(ICA)(International Coffee Agreement)のクオータ制(輸出割当枠制)が運用されていました。1989年にクオータ制が運用停止となった後、1990年代にアナカフェ(Anacafé)は、グアテマラのコーヒーの競争力をその品質に集中することに決定し、ブランド名「グアテマラン・コーヒーズ(Guatemalan Coffees)」を立ち上げました。
2018年に、グアテマラのコーヒーの生産は、国の無形遺産(Patrimonio Intangible de la Nación Tradición cafetalera en Guatemala, Acuerdo Ministerial Número 606-2018)として、政府によって認定されました。
congreso-2018 - Anacafé:https://www.anacafe.org/eventos/congreso-2018/
29 Congreso Nacional de la Caficultura ANACAFE – Promecafe:https://promecafe.net/?p=8279
2020年に、アナカフェ(Anacafé)は設立60周年を迎えました。2020年7月1日に、グアテマラは国際コーヒー機関(ICO)(International Coffee Organization) から離脱することを表明しました。
UPDATE 1-Guatemala says will leave the International Coffee Organization - REUTERS:https://jp.reuters.com/article/guatemala-coffee/update-1-guatemala-says-will-leave-the-international-coffee-organization-idINL1N2E92EL
グアテマラは行政区画として22の県(英語:Department、スペイン語:Departamento)に分類され、304の自治体(英語:Municipality、スペイン語:Municipio)があります。グアテマラでは、22の県のうち20の県、304の自治体のうち204の自治体でコーヒーが栽培されており、12万5千の家族がコーヒーで生計を立てています。
グアテマラのコーヒーの組織
グアテマラのコーヒーの組織には、1960年に設立されたアナカフェ(Anacafé)の他に、1990年に設立された1994年に設立された農村開発のためのグアテマラコーヒー財団(ファンカフェ)(Funcafé)(英語: Guatemalan Coffee Foundation for Rural Development、スペイン語:Fundación de la Caficultura para el Desarrollo Rural)、2006年に設立されたグアテマラのスペシャルコーヒーの通商連合(フェセッグ)(FECCEG)(英語:Trade Federation of Special Coffee of Guatemala、スペイン語:La Federación Comercializadora de Café Especial de Guatemala)があります。
グアテマラの8つのコーヒー生産地域
8つのコーヒー生産地域と「選択の虹」
アナカフェ(Anacafé)は、アンティグア・コーヒー(Antigua Coffee)、アカテナンゴ・バレー(Acatenango Valley)、トラディショナル・アティトラン(Traditional Atitlan)、レインフォレスト・コバン(Rainforest Coban)、フライハネス・プラトー(Fraijanes Plateau)、ハイランド・ウエウエ(Highland Huehue)、ニュー・オリエンテ(New Oriente)、ボルカニック・サン・マルコス(Volcanic San Marcos)の8つをコーヒー生産地域として認定しています。
アナカフェ(Anacafé)はさらに、2020年11月20日に発表した「選択の虹(A Rainbow of Choices)」というスローガンの下、8つのコーヒー生産地域を補完する戦略として、マイクロリージョン化に取り組んでいます。そして、2021年4月20日に、アナカフェ(Anacafé)は「比類のないグアテマラ(One of a Kind Guatemala)」というオークション・プログラムを開始することを発表しました。これは、スペシャルティコーヒーの「マイクロ(Micro)」または「ナノ(Nano)」ロットに焦点を当てたオークションです。
3つの山脈と火山
メキシコから走るシエラ・マドレ(スペイン語:Sierra Madre)は、グアテマラでグアテマラ北西を横切るシエラ・デ・ロス・クチュマタネス(スペイン語:Sierra de los Cuchumatanes)とグアテマラ南西を横切るシエラ・マドレ(スペイン語:Sierra Madre)の2つの支脈に枝分かれします。コーヒー生産地域は、これら2つにシエラ・デ・ラス・ミナス(スペイン語:Sierra de las Minas)を加えた3つの山脈に位置しています。
グアテマラの8つの生産地域は、3つの非火山地域と5つの火山地域に分かれます。3つの山脈のうち、シエラ・マドレは火山性の山脈で、伝統的なコーヒー生産地域はここに位置しています。対して、シエラ・デ・ロス・クチュマタネスとシエラ・デ・ラス・ミナスは非火山性の山脈で、新興のコーヒー生産地域はここに位置しています。具体的には、ハイランド・ウエウエはシエラ・デ・ロス・クチュマタネス、ニュー・オリエンテはシエラ・デ・ラス・ミナスに位置しています。
グアテマラには、30の火山があります。5つの火山地域は、これらのうちいくつかの活火山の活発な活動の影響を受けます。
また、トラディショナル・アティトランはアティトラン湖(英語:Lake Atitlán、スペイン語:Lago de Atitlán)、フライハネス・プラトーのアマティトラン(Amatitlán)はアマティトラン湖(英語:Lake Amatitlán、スペイン語:Lago de Amatitlán)と、湖の周辺でコーヒーが栽培されています。
太平洋側の気候の影響を受けた地域は天日乾燥が可能ですが、その他の地域では、機械乾燥、もしくは天日乾燥と機械乾燥の組み合わせで乾燥工程を行っています。
グアテマラのコーヒー生産地域のそれぞれの特徴
コーヒー生産地域 | 火山 | 県 | 標高(m) | 気温(℃) | 年間降雨量(mm) | 湿度(%) | 土壌 | 品種 | 収穫時期 | カップ・プロファイル | 乾燥 |
アンティグア・コーヒー(Antigua Coffee) | 火山地域(アグア火山、アカテナンゴ火山、フエゴ火山) | サカテペケス県 | 1,500m - 1,700m | 19℃ - 22℃ | 800mm - 1,200mm | 65% | 火山性の軽石土壌 | ブルボン、カツーラ、カツアイ | 12月 - 3月 | 豊かなアロマと甘さを伴うエレガントでバランスの取れた味わい | 天日乾燥 |
アカテナンゴ・バレー(Acatenango Valley) | 火山地域(アカテナンゴ火山、フエゴ火山) | チマルテナンゴ県 | 1,300m - 2,000m | 13℃ - 31℃ | 1,200mm -1,800mm | 70% - 80% | 火山性の軽石土壌 | ブルボン、カツーラ、カツアイ | 1月 - 3月 | 香り高さ、際立った酸味、バランスのとれたボディ、クリーンで余韻に優れた後味 | 天日乾燥 |
トラディショナル・アティトラン(Traditional Atitlán) | 火山地域(アティトラン火山、サン・ペドロ火山、トリマン火山) | ソロラ県 | 1,500m - 1,700m | 20℃ - 22℃ | 2,500mm - 3,300mm | 75% - 85% | 有機物が豊富な火山性土壌 | ブルボン、ティピカ、カツーラ、カツアイ | 12月 - 3月 | 明るい柑橘系の酸味とフルボディを伴った心地よいフレーバー | 天日乾燥 |
レインフォレスト・コバン(Rainforest Coban) | 非火山地域 | アルタ・ベラパス県 | 1,300m - 1,700m | 15℃ - 20℃ | 3,000mm - 4,000mm | 85% - 95% | 石灰岩と粘土質の土壌 | ブルボン、マラゴジッペ、カツアイ、カツーラ、パチェ | 12月 - 3月 | はっきりとした新鮮なフルーツのようなフレーバー、バランスに優れたボディと心地よいアロマ、軽い酸味 | 機械乾燥 |
フライハネス・プラトー(Fraijanes Plateau) | 火山地域(パカヤ火山) | グアテマラ県 | 1,400m - 1,800m | 12℃ - 26℃ | 1,500mm - 3,000mm | 70% - 90% | 火山性の軽石土壌 | ブルボン、カツーラ、カツアイ、パチェ | 12月 - 3月 | 豊かな香りを伴ったはっきりとしたボディ、明るく持続的な酸味 | 天日乾燥 |
ハイランド・ウエウエ(Highland Huehue) | 非火山地域(シエラ・デ・ロス・クチュマタネス) | ウエウエテナンゴ県 | 1,500m - 2,000m | 20℃ - 24℃ | 1,200mm - 1,400mm | 70% - 80% | 石灰岩の土壌 | ブルボン、カツーラ、カツアイ | 1月 - 4月 | はっきりとした強い酸味、フルボディ、ナッツやフルーツのようなフレーバー、心地よいワインのような調子 | 天日乾燥と機械乾燥 |
ニュー・オリエンテ(New Oriente Oriente | 非火山地域(シエラ・デ・ラス・ミナス) | サカパ県、チキムラ県、ハラパ県、エル・プログレソ 県、フティアパ県 | 1,300m - 1,700m | 18℃ - 25℃ | 1,800mm - 2,000mm | 70% - 80% | 変成岩と石灰岩の土壌 | ブルボン、カツーラ、カツアイ、パチェ | 12月 - 3月 | 香り高く、チョコレートのようなフレーバーを持つバランスのとれた味わい | 天日乾燥と機械乾燥 |
ボルカニック・サン・マルコス(Volcanic San Marcos) Marcos | 火山地域(タカナ火山、タフムルコ火山) | サン・マルコス県、ケサルテナンゴ県 | 1,300m - 1,800m | 21℃ - 27℃ | 4,000mm - 5,000mm | 70% - 80% | 火山性土壌 | ブルボン、カツーラ、カツアイ | 12月 - 3月 | 繊細なフローラルフレーバー、際立った酸味、ミディアムボディ | 天日乾燥と機械乾燥 |
アンティグア・コーヒー
アンティグア・コーヒー(Antigua Coffee)は、グアテマラで最も古い歴史を持つコーヒー生産地域です。アンティグア・コーヒーは、2000年に設立されたアンティグアコーヒー生産者協会(APCA)(英語:Antigua Coffee Producers Association、スペイン語:Asociacion De Productores De Cafe Genuino Antigua)から、「ジェニュイン・アンティグア(Genuino Antigua)」の認定を受けます。
また、アンティグアコーヒー生産者協会(APCA)は、アンティグア・コーヒーの地理的表示(GIs)(Geographical Indications) および原産地呼称(DOs)(Denominations of Origin)の取り組みを行っています。
アカテナンゴ・バレー、フライハネス・プラトーと同様に火山性の軽石土壌であり、酸味が特徴的ですが、バランスの取れたエレガントな味わいです。
アカテナンゴ・バレー
アカテナンゴ・バレーは、かつてはアンティグア・コーヒーとして販売されることもありましたが、原産地呼称保護運動により、生産地域として確立しました。
アンティグア・コーヒーと同様に、火山性の軽石土壌ですが、より際立った酸味を特徴としています。
トラディショナル・アティトラン
トラディショナル・アティトランのコーヒーは、アティトラン湖(英語:Lake Atitlán、スペイン語:Lago de Atitlán)の湖畔を占めるアティトラン火山、サン・ペドロ火山、トリマン火山の3つの火山の斜面で栽培されています。
コーヒーはアティトラン湖の水を使用してウォッシュト(Washed)で精製され、湿度が高いですが天日乾燥されます。
レインフォレスト・コバン
レインフォレスト・コバンは、熱帯低気圧の影響を受け、曇りと雨が続く冷涼な気候です。8つのコーヒー生産地域で最も降雨量が多く、「チピ・チピ(chipi chipi)」と呼ばれる長期間続く雨があります。乾季は2月から4月と短く、乾燥工程は機械によって行われます。
非火山性の石灰岩と粘土質の土壌であるため、酸味が軽やかです。
フライハネス・プラトー
フライハネス・プラトーはアンティグア・コーヒー同様に、火山性の軽石土壌と高い標高を特徴としていますが、アンティグア・コーヒーよりも降雨量が多く、湿度が高い気候です。
フライハネス・プラトーはアンティグア・コーヒーよりも酸味の強さを特徴としています。
ハイランド・ウエウエ
ハイランド・ウエウエは、スペシャルティコーヒー時代に注目され始めたコーヒー生産地域です。
シエラ・デ・ロス・クチュマタネスに位置するハイランド・ウエウエは、3つの非火山地域の中で、最も標高が高く、最も乾燥しています。メキシコ(Mexico)オアハカ(Oaxaca)のテウアンテペック地峡(英語:Isthmus of Tehuantepec、スペイン語:Istmo de Tehuantepec)の高原地帯から吹き付ける乾燥した熱風とシエラ・デ・ロス・クチュマタネスから吹き下ろす冷たい風とが混ざり合い、霜から保護されたマイクロクライメイト(微気候)を生み出しています。
収穫時期は1月から4月と、他の地域よりも1ヶ月ほど遅れています。
ハイランド・ウエウエは非火山地域ですが、はっきりとした強い酸味を特徴としています。
ニュー・オリエンテ
ニュー・オリエンテは、1950年代からコーヒー栽培が始まり、1980年代以降のスペシャルティコーヒーの需要の増加に伴い、注目され始めました。
ニュー・オリエンテは変成岩と石灰岩の土壌で、火山地域とは異なった土壌を持っています。
ボルカニック・サン・マルコス
ボルカニック・サン・マルコスは、メキシコから走るシエラ・マドレの入り口に位置しています。、8つのコーヒー生産地域で最も温暖で、降雨量が多い地域です。収穫期の降雨量は予測できないため、コーヒーの多くは天日での予備乾燥後、グアルディオラ乾燥機で仕上げられます。
コーヒーは、タカナ火山(英語:Tacaná Volcano、スペイン語:Volcán Tacaná)とタフムルコ火山(英語:Tajamulco Volcano、スペイン語:Volcán Tajamulco)の斜面で栽培されています。
規格(グレード)
ストリクトリー・ハードビーン(SHB) | 標高1,370m以上 |
セミハードビーン(SH) | 標高1,066m - 1,370m |
エクストラ・プライムウォッシュト(EPW) | 標高764m - 1,066m |
グアテマラのコーヒーは、硬質な豆として知られています。グアテマラのコーヒーは、栽培される標高により、規格(グレード)が分けられています。グアテマラのコーヒーの規格は7段階、もしくは8段階に分けられるという説明がよく見受けられますが、アナカフェ(Anacafé)は3段階の区分を提示しています。
グアテマラらしいコーヒーとして想起されるコーヒーに、グアテマラ SHBが挙げられます。グアテマラ SHBは、爽やかな酸味とチョコレートフレーバー、バランスの取れた味わいを特徴としており、グアテマラらしいコーヒーの味として一般的に認識されています。
グアテマラ(Guatemala):https://real-coffee.net/category/coffee-origin/central-america/guatemala