フラット・ホワイトの歴史
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フラットホワイトの歴史

オーストラリアのフラットホワイト

オーストラリアにおけるエスプレッソ文化の成立は、1950年代以降のイタリア系移民の流入と密接に関係している。なかでも北クイーンズランドでは、朝食シリアル、菓子、酒類、清涼飲料、製パン産業の急成長を支える砂糖の世界的な需要によるサトウキビ産業の成功によって、一攫千金を成し遂げたイタリア系サトウキビ農家が、インガム、イニスフェイル、エア、ホームヒルといった町々のメインストリートに、そして北クイーンズランドの砂糖ブームの町々全体に、イタリアンカフェを開業し、エスプレッソ文化を早期に定着させた。

オーストラリアは、1950年代に遡るイタリアに次ぐ第2の古いエスプレッソ文化を有している。特に北クイーンズランドのイタリア系サトウキビ農家の存在、そしてメルボルンやシドニーのイタリア人コミュニティが手荷物にビアレッティ(Bialetti)のエスプレッソポットを持ち込んだことが背景にある。1960年代末までに、オーストラリアはイタリア、スペインに次ぐ世界第3位のエスプレッソマシン保有国となり、その多くが北クイーンズランドに集中していた。

こうした文化的背景のもと、北クイーンズランドでは1970年代に「ホワイトコーヒー(フラット)」と呼ばれる飲料が提供されていたとされる。この飲料は、エスプレッソにミルクを加えつつも、カプチーノのように泡を強調しない点に特徴があった。

1985年、北クイーンズランド出身のアラン・プレストンは、シドニー・ヘイマーケットのサセックス通りに「ムーアズ・エスプレッソ・バー(Moors Espresso Bar)」を開業した。彼は、北クイーンズランドで見聞きしたホワイトコーヒー(フラット)をもとに、「フラットホワイト(Flat White)」をメニューに載せた。

現在確認されている限り、ムーアズ・エスプレッソ・バーは、「フラットホワイト」という名称がカフェのメニューに記載された最古の記録例とされる。これ以前にフラットホワイトという名称が使用されていたことを示す写真や文書は確認されていない。

ホワイトコーヒー(フラット)やフラットホワイトは、オーストラリアにおける非イタリア系エスプレッソの始まりと軌を一にする。アラン・プレストンは自身がイタリア人ではなく、当時エスプレッソを独占するイタリア人の横暴さに憤りを感じていた。そこで最初のカフェを「ムーア人のエスプレッソバー(ムーアズ・エスプレッソ・バー)」と名付けた。これはラクダ商人でありヤギ飼いであったムーア人への回帰を意味する。伝説では、彼らはコーヒーの発見者であるとされている、

アラン・プレストンは、1985年から1992年までの間に、シドニー中心部およびチャイナタウン周辺で計7店舗のカフェを展開し、すべての店舗でフラットホワイトを提供した。

1970年代から1980年代にかけて、シドニー、メルボルン、オークランドなどの都市部には、ヨーロッパからの新移民によるイタリアンカフェが急増した。イタリア人経営者は、エスプレッソ、カプチーノ、ラテといったイタリア語由来の名称で注文を受けることに慣れており、「ブラックコーヒー」や「ホワイトコーヒー」という英語圏的な注文は、必ずしも想定されていなかった。その結果、ミルク入りコーヒーを求める客が、意図せず泡の多いカプチーノを出されることが少なくなかった。

ニュージーランドのフラットホワイト

一方、ニュージーランドでは、ウェリントンのバリスタであったフランク・マッキネスが、1989年に泡立てに失敗したカプチーノを客に提供する際、「これはフラットホワイトだ」と説明したと主張している。

ニュージーランドにおけるフラットホワイトの成立を理解するには、家庭におけるコーヒーの飲用に注目する必要がある。ニュージーランドの家庭では、ミルクを加えないコーヒーを「ブラック」、ミルクを加えたコーヒーを「ホワイト」と呼ぶ慣習が長らく存在してきた。そのため、カフェにおいても「コーヒーはブラックかホワイトか?」聞かれるのが一般的だった。

ニュージーランドのカプチーノは、放牧主体の乳牛から得られる牛乳の性質も相まって、きわめて硬く大きな泡を形成する傾向があり、しばしばチョコレートパウダーを添えて提供された。このような飲料は、家庭で日常的に飲まれてきた素朴なホワイトコーヒーとは印象が大きく異なり、気軽な飲料としては距離を感じさせる存在であった。一方、ラテはミルクの量が多く、家庭的なホワイトコーヒーの代替としては必ずしも満足のいく選択肢とは言えなかった。

このように、家庭で親しまれてきた「プレーンなホワイトコーヒー」をカフェで注文できる選択肢が存在しなかった状況の中で、泡を抑え、ミルクとエスプレッソを均質に融合させた飲料が求められるようになったと考えられる。ニュージーランドでは、炭酸の抜けた飲料を「フラット」と表現する語感が一般的であったため、「フラットホワイト」という名称は、泡の少ないミルク入りコーヒーを指す表現として自然に受容された。

イギリスのフラットホワイト

これらの説に対して、イアン・バーステンは異なった考えを持っている。バーステンによれば、この飲料は1950年代にイギリスで広まった可能性が高いという。「フラットホワイトを誰が発明したかは誰も知らない。突然現れたものだ」と彼は言う。

フラットホワイトとは何か?

カプチーノは、エスプレッソにスチームミルクと厚いフォームを加えた飲料であり、液体と泡の層構造が明確に分離している点に特徴がある。オーストラリアおよびニュージーランドでは、仕上げにチョコレートパウダーを振りかける提供形態が一般的であり、泡そのものの存在感が重視されてきた。一方、カフェラテはエスプレッソに多量のスチームミルクを加え、表面に薄いフォームをのせた飲料である。容量は比較的大きく、全体としてミルク主体の飲料と位置づけられる。これに対し、カフェオレはフランス文化圏に由来する飲料であり、ドリップコーヒーと温めたミルクをほぼ同量混合する点に特徴があり、エスプレッソは用いられない。

コーヒー飲料の名前が意味するものは、それぞれの国や地域の文化的・時代的背景によって異なるが、概ねこのように説明できる。

これらの飲料と比較すると、フラットホワイトは、エスプレッソの風味を明確に保持しつつ、きめ細かいマイクロフォーム状のミルクを飲料全体に一体化させた点に独自性がある。泡は液体の上に層として「乗る」のではなく、液体と不可分の状態で均質に分散しており、視覚的にも泡の存在が強調されない。この特性によって、フラットホワイトは「泡の少ないカプチーノ」や「小さなラテ」といった分類から区別できる。

複数の説明を比較すると、細部には相違があるものの、共通して認められる特徴も浮かび上がる。すなわち、フラットホワイトはラテよりもミルクの比率が低く、泡も抑制されており、その結果としてエスプレッソの存在感が相対的に強い飲料であるという点である。ミルクの質感は滑らかで自然な甘みを伴い、泡と液体が視覚的にも味覚的にも分離しない状態が理想とされる。

より具体的には、フラットホワイトは、硬く分離した泡ではなく、液体と完全に一体化したベルベット状のマイクロフォームを用いることが重視される。また、容量はマキアートやコルタドより大きいが、ラテほど大きくはなく、中程度に抑えられるべきだとされる。さらに、エスプレッソはダブルショットを基本とし、飲料全体がミルク主体ではなく、あくまでコーヒー主体である構成が理想とされている。

アラン・プレストン自身の説明によれば、フラットホワイトとは、セラミックカップに抽出された約30mlのエスプレッソを基盤とし、十分に泡立てたミルクを慎重に注ぐことで、表面にオイル分を含むメニスカス(液面の曲面)を形成した飲料である。プレストンは、ラテアートのようにミルクの泡を視覚的に分離させる表現を否定し、泡と液体が完全に一体化した状態こそが本来のフラットホワイトであると主張している。

プレストンは、エスプレッソに用いるコーヒー豆は、2ハゼが十分に進行するまで焙煎されるべきであると考えていた。多くのロースターが浅煎りを選択する理由について、彼は、焙煎時間の短縮、煙や汚れの回避、シュリンク(焙煎減量)の少なさといった経済的・環境的要因を挙げている。とりわけ郊外に拠点を置くロースターにとって、適切な深煎りに伴う煙は現実的な制約となりやすく、その結果として浅煎りを正当化する言説が広まったと彼は批判している。

プレストンのフラットホワイトは、決して「泡のない飲料」ではない。むしろ、表面に形成されるメニスカスを成立させるためには、一定量の泡が不可欠であり、プレストンは少なくとも約1インチ(約2.5cm)の泡が必要であると述べている飲み進めるにつれて現れる「水位の跡(tide mark)」は、飲用体験の進行を可視化するものであり、正しく作られたフラットホワイトでは、この痕跡が最後の一口まで残るとされる。

スターバックスにおけるフラットホワイト

2015年、スターバックスは北米市場にフラットホワイトを導入した。同社のレシピでは、リストレットエスプレッソと全乳を用い、「滑らかでクリーミーだが、強すぎない」味わいが強調されている。

滑らかなリストレットエスプレッソに、完璧な量の温めた全乳を加え、強すぎず、クリーミーすぎず、ちょうど良い味わいに仕上げました。

Smooth ristretto shots of espresso get the perfect amount of steamed whole milk to create a not-too-strong, not-too-creamy, just-right flavor.

Flat White: Starbucks Coffee

スターバックスでは、同じ用語がコーヒー業界とは異なった意味で使われることがある。スターバックスにおけるフラットホワイトには、他とは異なる2つの特徴がある。第1に、ショートからベンティまで複数サイズが存在する点である。スターバックスは、フラットホワイトをエスプレッソとミルクの「比率」で定義している。第2に、スターバックスのフラットホワイトは、少なくともプロモーション画像上では、ドリンク表面に泡の小さな点(ドット)しか描かれていない。カフェでフラットホワイトを注文すると、ラテアートが施された飲料が提供される可能性が高い。

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