コーヒーによるジェントリフィケーションとアンチ・ジェントリフィケーション
コーヒーとジェントリフィケーション
アメリカ合衆国では、スターバックスの進出がジェントリフィケーションのサインらしい。
また、現実にも、スターバックスやホールフーズ・マーケットが“ジェントリフィケーションのサイン”だと言われており、これらの店が進出するアメリカのエリアは必ず地価が高騰する。
此花 わか「「都市の高級化」でアフリカ系アメリカ人の居場所が奪われている」,現代ビジネス 2020年10月10日.
ジェントリフィケーション(Gentrification)は、「都市の富裕化現象」として説明される。低所得地域が高所得者向けの都市として開発されることにより、生活は経済に、文化はショッピングとサービスに置き換わる。ジェントリフィケーションは、喧騒を閑静に変え、危険を安全に変え、不便を利便に変える。この潔癖さは、地域の色をホワイトに塗り替える。
アメリカのジェントリフィケーションは街から民族的・文化的多様性を奪い、ホワイトカルチャー一色に塗り替えてしまった。
此花 わか「「都市の高級化」でアフリカ系アメリカ人の居場所が奪われている」,現代ビジネス 2020年10月10日.
清澄白河は、ジェントリフィケーションに「コーヒー」と「アート」を利用した。清らかでホワイトな街として?
とりわけ「コーヒー」と「アート」関連施設の集積に重要な影響を与えたのは、産業化の時代が残した遊休空間の存在である。清澄白河にはサードウェーブコーヒーと呼ばれる、1990 年代後半以降のコーヒーブームに影響されたカフェが多いが、これは単なる偶然ではない。物流の拠点であったがゆえに多く残っていた倉庫群は、コーヒー豆の焙煎機などを置く広いスペースを必要とするサードウェーブコーヒーの店に最適な物理的空間を提供した。また、同様の条件はギャラリーやアーティストのアトリエ・工房にもふさわしいとされ、木場公園内に東京都現代美術館が開館した以来(1995)、清澄白河には現代アートを中心としたギャラリーの集積が見られるようになった。
金 善美「東京都江東区・清澄白河はいかにして「コーヒーとアートの街」になったか─雑誌分析からみた東京インナーシティの空間再編 1 ─」,成蹊大学文学部紀要 第 57 号(2022)
サードウェーブは、コーヒーの歴史と文化をトレーサビリティとサステナビリティと美味しさに置き換え、コミュニティのハブとしてのコーヒーショップを流行に敏感なヒップたちの巡礼スポットに置き換えた。ここには世界があるが、社会がない。
サードウェーヴの弊害は、英国名物のパブにも及んでいる。個人経営のパブがロンドンで続々と潰れているのだ。ヒップスターたちは絨毯にビロードのソファの薄暗い伝統的パブではなく、フローリングの床にシャビーシックな家具の自然光の入る明るいバーに行く。そしてこうしたバーがワインやカクテルと一緒に売っているのがサードウェーヴのコーヒーだ。今、観光客が首都圏でパブだと思って入っている店は、もはやコミュニティーのハブとなる「パブリック・ハウス」の面影は残していない。
ブレイディみかこ「ヒップスターとジェントリフィケーションの因果な関係」,10+1 website 2016年1月
サードウェーブでは、歴史や階級、格差などの時間と世界を垂直に貫く問題系が、グローバリゼーションにおけるローカリゼーションという経済や文化の水平的な広がりの問題系に上書きされる。
もしここで「好きなところに住むのが自由社会の基本だろ」とヒップスターが反旗を翻していれば、下層民から向けられる憎悪や迫害に対するミドルクラス・リベラル側からの反抗になり得ただろうが、彼らはそんなことよりもコーヒー豆がどこから来たか、どうやって煎れるかを考えることで忙しかった。
ブレイディみかこ「ヒップスターとジェントリフィケーションの因果な関係」,10+1 website 2016年1月.
コーヒーとアンチ・ジェントリフィケーション
CxffeeBlackの創設者、モーリス・ヘンダーソンII(Maurice Henderson II)によると、クラフトブルワリー、プードルを散歩させる女性、ホールフーズ、コーヒーショップが、ジェントリフィケーションの黙示録の4頭の馬らしい。
ジェントリフィケーションの黙示録には、4頭の馬がいる。
モーリス・ヘンダーソンII(CxffeeBlackの創設者、ペンネームはバーソロミュー・ジョーンズ)によると、クラフトブルワリー、プードルを散歩させる女性、ホールフーズ、コーヒーショップは、コミュニティが収穫の時期を迎えたという「ジェントリフィケーション集団」の目印になるという。
ヘンダーソンと妻のレナータ・ヘンダーソン(メンフィス初の黒人女性コーヒーロースター)にとって、これには皮肉がある。コーヒーの起源はアフリカに遡り、ヘンダーソンによれば、エチオピア南部、スーダン、エリトリア、ジブチでは「アフリカの伝統的な薬」だそうだ。
「コーヒーは母国ではとても素晴らしい儀式ですが、私たちの近所にやってくるお店では一般的にそのような視点はありません」とヘンダーソンは言う。「実際、どういうわけかほとんど反黒人のような空間があるのです。コーヒーは文字通りブラックで、歴史的にもブラックであるにもかかわらず。」
There are four horsemen of the gentrification apocalypse.
According to Maurice Henderson II (the founder of CxffeeBlack better known by his pen name, Bartholomew Jones), craft breweries, ladies walking their poodles, Whole Foods, and coffee shops are markers to the “gentrification population” that a community is ripe for harvesting.
For Henderson and his wife, Renata Henderson (Memphis’ first Black female coffee roaster), there’s irony in this. Coffee’s origins can be traced back to Africa, and according to Henderson, it’s the “traditional African medicine” for Southern Ethiopia, Sudan, Eritrea, and Djibouti.
“Coffee is such an amazing ritual in the motherland, but that’s not the perspective we generally see in shops that come into our neighborhoods,” says Henderson. “In fact, somehow there are spaces that are almost anti-Black. Even though coffee is literally black, and historically Black.”
Kailynn Johnson"The Anti Gentrification Coffee Club",Memphis Flyer 2022年10月10日.
ここには、コーヒーの歴史と文化、コミュニティにおけるコーヒーショップの役割の2つの視点がある。
ヘンダーソンは、コーヒーがブラジル、ハイチ、中南米、カリブ海の奴隷貿易によって100万ドル規模の産業になったこと、コーヒーを今日のような産業に育てるために西アフリカの奴隷が使われたことなどの歴史に踏み込んでいる。
歴史的に黒人のものであり、黒人が発見し、世界中で黒人が栽培しているものが、どうして黒人が働いたり、オーナーになったりすることが珍しい、あるいは「想定外」になるのか、夫婦で考えてみると、皮肉はさらに強まる。特に、これらのコーヒーショップが黒人や褐色人種の居住区にある場合は。
Henderson dives into the history of how coffee was made into a million-dollar industry through the slave trade in Brazil, Haiti, Latin and Central America, and the Caribbean, and that West African slaves were used to grow coffee into the industry that it is today.
The irony intensifies for the couple, as they ponder how something that is historically Black, discovered by Black people, grown by Black people across the world, becomes uncommon or even “unexpected” to see Black people work with, or even be in ownership roles. Especially when these coffee shops are in Black and brown neighborhoods.
Kailynn Johnson"The Anti Gentrification Coffee Club",Memphis Flyer 2022年10月10日.
コーヒーは歴史的に、白人の管理によって黒人・土着民が栽培し、白人によって消費されてきた。黒人が白人の消費文化を真似る時、アンチ・ジェントリフィケーションはジェントリフィケーションの反動以上のものになるだろうか?それ自体、「文化的多様性」に回収されはしないだろうか?
ヘンダーソン夫妻はエチオピアを2度訪れ、その体験をドキュメンタリー映画『CxffeeBlack to Africa』で語り、インディー・メンフィス映画祭で上映されることもあるそうだ。エチオピアのコーヒーと彼らがアメリカ合衆国で経験したコーヒーとの決定的な違いは、エチオピアのコーヒーが 「共同体」であることだ。
「物事はゆっくり進むものです」、ヘンダーソンはこう説明する。「アボレ、トナ、ベレカと呼ばれる3つのプロセスを経て、「シニ」と呼ばれる小さなカップで3杯分飲むんです。アフリカの伝統的な空間では、大きなカップのコーヒーを持つことはありません」。
ヘンダーソンは、エチオピアでは、このプロセスは黒人女性が主導しており、コーヒーは新鮮なまま焙煎され、準備され、そして提供されると説明する。
「エチオピアには、コーヒーを受け取るときに言う伝統的な祝福の言葉があります」とヘンダーソンは言う。「「Buna fi Nagaa hin Dhabiinaa」、つまり「あなたの家にコーヒーと平和が欠けませんように」という意味です。あなたとあなたの家族の平和を願っているのです。あなたはコーヒーを飲み、「アーメン」と返事をします。そうやって、他の人たちと一緒に座って、黒人女性たちが用意してくれるコーヒーを待つんです」。
地球初のバリスタ、そしてコーヒーロースターとして黒人女性を中心に据えることは、ヘンダーソンと彼のチームが心がけていることであり、彼が 「珍しい空間」と言っていることでもある。コミュニティのためのスペースを作り、人々が 「スローダウン」するためのスペースを作ることは、スターバックスでのアーリー・ラッシュの体験と相反するものだと彼は言う。
The Hendersons have been to Ethiopia twice, and even talked about their experiences in a documentary, CxffeeBlack to Africa, that will be shown at the Indie Memphis Film Festival. The defining difference between coffee in Ethiopia and what they have experienced in the states is that coffee in Ethiopia is “communal.”
“Things are slow,” explains Henderson. “They do these three processes called Abole, Tona, and Bereka, where you have these really small cups called ‘Sinis,’ and you get three cups. There’s no going into traditional African spaces and getting a big cup of coffee to go.”
Henderson explains that in Ethiopia, this process is led by Black women, where the coffee is roasted fresh, prepared, and then served.
“There’s a traditional Ethiopian blessing that is said when you receive it,” says Henderson. “Buna fi Nagaa hin Dhabiinaa, which means ‘May your house lack no coffee nor peace.’ They wish peace upon you and your family. You sip the coffee, say ‘amen’ in response. You’re doing that with a group of other people who are sitting there, and waiting on coffee to be prepared for you by these Black women.”
Centering Black women as the planet’s first baristas, and coffee roasters, is something that Henderson and his team try to do, and is something that he says is “uncommon in a space.” Creating space for community and creating space for people to “slow down” is antithetical to an early rush experience at Starbucks, he says.
Kailynn Johnson"The Anti Gentrification Coffee Club",Memphis Flyer 2022年10月10日.
私は歴史から反動ではなく能動を、後退りしながら前進することを覚えたい。すなわち、歴史と文化からコーヒーを捉え直し、コーヒーショップからコミュニティを創造し直すことを。