
工房 横井珈琲のエチオピア イルガチェフェ テスファエ・ロバ ナチュラルです。工房 横井珈琲は1996年にオープンした札幌市西区に本店があるスペシャルティコーヒー専門店です。現在札幌市内に2店舗展開しています。
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エチオピア イルガチェフェ テスファエ・ロバ ナチュラル

エチオピア
エチオピア(Ethiopia)は東アフリカに位置する内陸国です。北をエリトリア、東をソマリア、南をケニア、北西をスーダン、北東をジプチに囲まれています。首都はアディスアベバです。エチオピアは200以上の言語を話す70以上の民族グループを持っています。かつてエチオピアはアビシニア(Abyssinia)と呼ばれていました。
エチオピアはナイル一帯の高原地帯に位置している、面積113万平方キロメートル以上のアフリカ最大の国の一つです。エチオピアには海抜マイナス100mをきるアファール盆地(Afar Depression)があるダナキル砂漠(Danakil Desert)と、海抜約4,600mのエチオピアの最高峰、ラス・ダシャン山(Ras Dashan)までの険しい地形が広がっています。
エチオピアコーヒーの主要な産地として、コーヒーの名の由来といわれるカファ地方(Kaffa)、南部のシダマ地方(Sidama)、東部山岳地帯のハラー(Harrar)があります。
エチオピアはグレート・リフト・バレー(Great Rift Valley、大地溝帯)の入り口にあたり、北東の紅海から南西に向かって国土を半分に割るようにグレート・リフト・バレーが貫いています。グレート・リフト・バレーの西と東で、コーヒーノキのタイプに違いが見られます。イルガチェフェ群は東側の南部グループに位置付けられます。東側のコーヒーノキは人工的に栽培されたものがほとんどで、自生のコーヒーノキは見られません。西側には自生のコーヒーノキがみられます。
コーヒーがいつ発見されたのかについては多くの説がありますが、エチオピアでの発見伝説は1671年レバノンの言語学者ファウスト・ナイロニが著書「眠りを知らない修道院」で紹介した山羊飼カルディが有名です。
「アラビアである山羊飼が、山羊が寝ずに一晩中跳ね回っているのに困って、修道士に相談に行った。修道士は山羊が何か特効のある草木を食べたに違いないと周辺を探すと、食い荒らされた赤い木の実を発見した。そして、その実を持ち帰り、ゆでた汁を飲むと、それが眠気を払うものと気がついた。修道士はこの効用を夜の祈りに利用することを思いつき、毎日これを飲むと、眠ることなく夜通し祈り続けることができた。その後、徐々に他の健康への効用も知られるようになり、その地の人々の間に浸透していった」。この赤い木の実がコーヒーであるという説です。
イルガチェフェ

エチオピア イルガチェフェ(Yirgacheffe)は、エチオピア南部諸民族州(Southern Nations, Nationalities, and People's Region(SNNPR))ゲデオ地方(Gedeo Zone)イルガチェフェ地域(Yirgacheffe Area)で生産されるコーヒーまたはそのブランドです。
エチオピアでは、国家による行政区分とは別に、「エチオピア商品取引所(Ethiopia Commodity Exchange (ECX))」によるコーヒー生産地域による分類があります。コーヒー生産地域の分類は国家による行政区画の分類とは異なっています。
このエチオピア イルガチェフェ テスファエ・ロバ ナチュラルは、ゲデオ地方のゲデブ郡(Gedeb Woreda)ウォルカ・サカロ住民自治組織(Worka Sakaro Kebele)で生産されたコーヒーです。
このコーヒーが生産されたゲデブ群はエチオピア商品取引所によるコーヒー生産地域の分類がありませんが、「イルガチェフェ地域」のコーヒーとして販売されています。
南部諸民族州
エチオピアでは1995年に憲法改正があり、「エチオピア連邦民主共和国憲法(the Constitution of the Federal Democratic Republic of Ethiopia)」が施行されました。ここからエチオピアは「諸民族」の民族自治による連邦制へと移行しました。
このエチオピア連邦民主共和国憲法のもとで、「諸民族」の民族自治の理念に合わせて、1995年にエチオピアでは行政区画の変更がありました。エチオピアの行政区画は「州(Region または Regional state)」、「地方(Zone)」、「群(Woreda)」の順に区分されることになり、さらに郡の下に行政区画の最小単位として「住民自治組織(Kebele)」が置かれることになりました。
「南部諸民族州(Southern Nations, Nationalities, and People's Region(SNNPR))」は、1995年にエチオピアが各民族に州を割り当てた際、かつては独立していた各民族を一つの州にまとめ、形成された州です。現行憲法では一民族ごとに一州が割り当てられていますが、複数の少数民族で構成されている南部諸民族州は、「地方(Zone)」または「特別郡(Liyu Woreda)」が民族構成単位となっています。
ゲデオ地方
ゲデオ地方はゲデオ民族(Gedeo people)によって構成される地方です。
ゲデオ民族は、2007年のエチオピアの国勢調査によると、150万人を超えるエチオピアで11番目に大きな民族グループです。彼らは南部諸民族州のゲデオ地方とオロミア州(Oromia Region)のグジ地方(Guji Zone)西部に住んでおり、世界的に有名なイルガチェフェコーヒーの生産者です。エチオピアのコーヒー輸出の3分の1は、彼らの生産するコーヒーによって占められています。
また、ゲデオ民族の50万人以上は、オロモ民族のサブグループであるグジ・オロモ民族(Guji Oromo People)とともに、オロミア州の70の住民自治組織に住んでいます。
ゲデオ民族とグジ・オロモ民族は、同様の文化と生活様式を共有している共通の祖先を持つ民族であると考えられています。
ゲデオ地方に住んでいるゲデオ民族は、「バーレ(baalle)」と呼ばれる年齢階層秩序と農業経済によって集団形成をする二つの伝統文化を持っています。「バーレ」はオロモ民族(Oromo people)の「ガダー(Gadaa)」に似たシステムです。「ガダー」は8年ごとに権力者が入れ替わるシステムですが、「バーレ」では、誕生10年で一つの階層が区分され、70年を一つのサイクルとしています。
エチオピアのコーヒーは栽培の仕方によって、ガーデン・コーヒー(Garden Coffee)、 フォレスト・コーヒー(Forest Coffee)、セミ・フォレスト・コーヒー(Semi-Forest Coffee)、プランテーション・コーヒー(Plantation Coffee)の4つのタイプに分けることができます。
ゲデオ地方のコーヒー生産はガーデン・コーヒーで、家の裏庭のような場所で小規模農家が栽培しています。ゲデオ地方は鉄分の多い深い土壌で、高品質のコーヒーを生産するのに適した栄養価の高い土壌です。
ゲデブ郡
ゲデブ郡はゲデオ地方最南端に位置する群で、コーヒー生産地域としては比較的新しいです。コーヒー生産農家は第1世代目もしくは2世代目で、コーヒーノキの樹齢も20-30年のものが多いです。
ゲデブ群はほとんどの場所で、カーメット・シーズン(Kermet Season)と呼ばれる6月から9月にかけての夏の季節に豊富な降雨量があります。
農家の栽培面積は1.5-2ヘクタールと小規模ですが、5-20ヘクタールの比較的大きな農園もいくつかあります。北部のイルガチェフェ群より栽培面積が若干広いです。
ゲデブ郡は、北にイルガチェフェ郡とコチェレ郡(Kochere woreda)チェレレクツ住民自治組織(Chelelektu Kebele)の隣接する地域です。コーヒーを生産しているゲデブ郡の住民自治組織(Kebele)は、ウォルカ・チェルベサ(Worka Chelbessa)、ウォルカ・サカロ(Worka Sakaro) 、バンコ・ザザト(Banko Dhadhato)、ハロ・ハルツーム(Halo Hartume)、ハルムフォ(Harmufo)ゲデブ・グビタ(Gedeb Gubita)、ゲデブ・ガルーシャ(Gedeb Galcha)、バンコ・チェルチェレ(Banko Chelchele)、バンコ・ゴチチ(Banko Gotiti)です。
近年になって、ゲデブ郡の政治的境界は北に伸び、以前はコチェレ郡(Kochere Woreda)の一部であった北部の住民自治組織を含むことになりました。しかしこの地域は2,400mを超える高すぎる標高のため、コーヒーはあまり生産されていません。
ウォルカ・サカロ住民自治組織
ウォルカ・サカロ住民自治組織(Worka Sakaro Kebele)は、ゲデブ郡を構成する16の住民自治組織の一つです。「ウォルカ(Worka)」という言葉はスペシャルティコーヒーの世界では比較的有名ですが、「ウォルカ・サカロ」で生産されるコーヒーはそれほど知られていません。
「ウォルカ(Worka)」という言葉は、地元のゲディオ語(Gedio Language)で「金」を意味しています。これはハイレ・セラシエ(Haile Selassie)の時代に、この地域の友好的な性格の住民に因んで名づけられました。
そしてゲデブ郡周辺には、地元で「サカロ(Sakaro)」と呼ばれる郷土樹木が見つかります。「ウォルカ・サカロ(Worka Sakaro)」は、この2つの言葉から名前が付けられました。
この住民自治組織の1,276ヘクタールの土地のうち、679ヘクタールでコーヒーノキが栽培されており、地元の需要な経済となっています。
エチオピアコーヒーと商標
2006年10月26日、オックスファム(Oxfam)がスターバックス(Starbucks)と全米コーヒー協会(National Coffee Association(NCA))に関するレポートを発表しました。
オックスファムはエチオピア政府がシダモ(Sidamo)、ハラー(Harar)、イルガチェフェ(Yirgachefe)を全米コーヒー協会に商標出願したことを、スターバックスが阻止しようと働きかけたとの声明を発表しました。しかし、スターバックスはエチオピア政府の商標登録出願に異議を申し立てたこともなく、原産地の所有権を主張したこともないと反論しました。
スターバックスがエチオピアの有名産地のブランド名を使用することによって高い利益を上げる一方で、現地の農家は低い利益しか得ることができないため、エチオピア政府とオックスファムはスターバックスにエチオピア政府とライセンス契約を結ぶように求めました。
2007年6月20日、エチオピア政府とスターバックスは流通、マーケティング、ライセンスに関する契約を締結することで決着しました。
また、エチオピア政府と日本の間でも商標登録を巡って争いが起きていました。
エチオピア政府と日本の間では、エチオピアの「シダモ」と「イルガチェフェ」が「商標」であるのか「産地名」であるのかをめぐり、長い間訴訟が起きていましたが、エチオピア政府が商標登録することで決着がつきました。
エチオピアには国家による行政区分の他に、「エチオピア商品取引所(Ethiopian Commodity Exchange(ECX))」によるコーヒー生産地域の区分があります。エチオピア政府が商標登録したのは、このコーヒー生産地域です。
エチオピア国YIRGACHEFFE(イルガッチェフェ)地域で生産されたコーヒー豆,エチオピア国YIRGACHEFFE(イルガッチェフェ)地域で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー29B01 32D04
「登録4955560」,特許情報プラットフォームより
この「イルガチェフェ地域」にはイルガチェフェ群の他に、ウェナゴ群(Wenago Woreda)、コチェレ群(Kochere Woreda)、ゲラナ・アバヤ群(Gelana Abaya)、ディラ・ズリア群(Dilla Zuria Woreda)が含まれており、これらの地域で生産されたコーヒー豆またはそれを原材料としたコーヒーは「イルガチェフェ地域」のコーヒーとして販売されます。
テスファエ・ロバ農園
テスファエ・ロバ(Tesfaye Roba)農園は、テスファエ・ロバ(Tesfaye Roba)氏によって運営される農園です。標高は2,100m-2,200mの高地です。
イルガチェフェのコーヒーのほとんどは、家庭の裏庭にある0.5-2ヘクタールの土地で栽培されています。ロバ家は例外的に、ディラ(Dilla)の町の近くで大きな農園を運営していました。しかし、ゲデオ地方北部の人口過剰、土地不足、収入のために、多くの生産者が南部に移住しました。テスファエ氏はこの流れを追って、ゲデオ地方の最南に位置しグジ地方(Guji Zone)に接する「ウォルカ・サカロ住民自治組織(Worka Sakaro Kebele)」に土地を見つけました。
彼はそこでエチオピアの品種である74112と74110の栽培を始めました。
彼はエチオピアのコーヒー輸出業者であるミジャネ・ウォラッサ・コーヒー輸出業者(Mijane Worassa Hiyu Coffee Export)のダニエル・ミジャネ(Daniel Mijane)氏と出会うことで、エチオピア商品取引所を経由することなく、コーヒーを直接買い手に輸出することができるようになりました。
*はっきりとはしませんが、このテスファエ・ロバ農園は、ゲデブ郡を拠点とするコーヒー生産者一家であるロバ家(Roba Family)のテスファエ・ロバ氏の農園ではないと思われます。
ロバ家については、以下の記事を参照してください。
精製方法
精製方法はナチュラル(Natural、乾式)です。
収穫したコーヒーチェリーをそのまま天日乾燥させ、干し葡萄状態になった殻(Husk、ハスク)を取り除きます。ナチュラルでは乾燥工程における果肉の発酵の作用によって、より複雑で強い味わいとなります。
品種
品種は740110と74112です。
エチオピアの品種は、「エアルーム品種(Ethiopia Heirloom)」として総称されることが多いです。
日本では「エチオピア在来種」、「エチオピア原種」などと呼ばれることが多いですが、これらはいわば俗称です(例えば、旦部幸博氏は「エチオピア野生種/半野生種」という呼び方をしています)。
このエアルーム品種は、野生種と半野生種の2つのグループに大きく分類されます。
エチオピアの野生種はグレート・リフト・バレーの西側に自生していた品種です(この辺りは旦部幸博氏の百珈苑BLOGの「エチオピアからイエメンへ:遺伝子解析による系統解析」を参照してください)。
エチオピアの半野生種の多くは、1967年に設立された「ジンマ農業研究センター(Jimma Agricultural Resarch Centre (JARC))」で開発された品種です。ここでは耐性のある高品質のコーヒー品種の開発と、それらの品種を栽培するための農業技術を提供してきました。
740110と74112は、1974年にジンマ農業研究センターで開発された半野生種です。これらはゲデオ地方に固有の在来種から派生した品種です。
カウンター・カルチャー・コーヒー(Counter Culture Coffee)のゲツ・ベケレ(Getu Bekele)氏の調査によると、ゲデオ地方にはジンマ農業研究センターの74シリーズが集中しているようですが、地元の農家では野生種と半野生種の様々な品種が混在して栽培されることがほとんどです。
エチオピア商品取引所によって取引されるコーヒーは、コーヒーの生産地域以外の情報はすべて匿名化され、品質によってロットが分類されるため、コーヒーの生産履歴を追跡することが困難です。
しかし、エチオピア商品取引所を経由しない一部のコーヒーは、生産された農園や精製所、品種などを特定することが可能です。
味
ストロベリー、チェリー、ピーチなどの複雑な果実感を持ったフレーバーとハチミツのような甘味、まろやかな口当たりが特徴です。ナチュラル精製のためフレーバーが強いですが、様々な印象がキレイにまとまったコーヒーです。
工房 横井珈琲のエチオピア イルガチェフェ テスファエ・ロバ ナチュラル




味
イルガチェフェに特徴的なベリーのようなフレーバーが強く感じられ、ハチミツのような甘味とトロミのある口当たりが印象的です。蜜のような甘味が様々な果実感のあるフレーバーを包み込むような印象で、複雑なフレーバーがキレイにまとまっています。
<参考>
「Lot 22c: Lot #22 Tesfaye Roba」,The Ethiopian Cup<https://theethiopiancup.com/zh/lots/lot-22-tesfaye-roba-6>