
コーヒーの味わいの表現と解釈
コーヒーの味わいの表現と解釈
Comme le fruit se fond en jouissance,
Comme en délice il change son absence
Dans une bouche où sa forme se meurt,
Je hume ici ma future fumée,
Et le ciel chante à l’âme consumée
Le changement des rives en rumeurs.果実が快楽(けらく)に溶けていくように、
Paul Valéry - Le Cimetière marin
その不在が恍惚へと至るように、
形象が死にゆく口の中で、
我が未来の煙を吸い込む。
空は憔悴した魂に向かい、
海辺が呟きへと変わる様を歌う
果実の味は、果実のうちにあるのでも、ないのでもない。果実の味は、口の中に入れなければあるはずがないが、口の中にあるのでもなく、ないのでもない。この「ある」と「ない」の様態が、味わいの本質である。
この「ある」と「ない」は、存在と無というより存在と不在であり、別の観点からは物質と非物質である。味わいは、表現の次元では物質的であり、解釈の次元では非物質的である。これらは「隔てられていて、結びついている」アンフラマンス(Inframince)(境界領域)によって結びつく。
ここでは、コーヒーの味わいの表現・解釈する際に、認知感覚を三つの次元に区分する。認知感覚は、認知感覚とメタ認知感覚、それらを統合する総合感覚に区分され、さらにそれぞれが表現と解釈の二つの次元に区分される。(ここにおける「次元」という言葉は、認知の階層性を表現するための、ある種の便宜的な使用に過ぎない。)
総合感覚の解釈 | インプレッション(印象) |
総合感覚の表現 | オーバーオール(全体) |
メタ認知感覚の解釈 | バランス(均衡)、ユニフォーミティ(統一性)、ハーモニー(調和)、シンフォニー(共鳴) |
メタ認知感覚の表現と解釈の境界領域 | クリンネス(透明性)、アブセンス(不在) |
メタ認知感覚の表現 | コンプレックス(複雑性)、インテンシティ(強度)、ラスティング(持続性)、デンシティ(密度)、ダイナミクス(強弱) |
認知感覚とメタ認知感覚の境界領域 | スイートネス(甘さ) |
認知感覚の解釈 | ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質)、タクタイル(質感) |
認知感覚の表現と解釈の境界領域 | マウスフィール(口当たり) |
認知感覚の表現 | アロマ(香り)、テイスト(味)、フレーバー(香りと味)、ボディ(量感)、アフターテイスト(後味) |
ここでは、認知感覚とは、感覚(刺激)→知覚(処理)→認知(情報)に至る一連のプロセスを意味する。このうち、知覚(処理)→認知(情報)のプロセスは、経験・知識・環境・先行情報などの、すでに組織化された認知に強い影響を受ける。さらに認知感覚の言語表現自体が、認知感覚の記憶を変容させ、飲用体験を書き換える。
メタ認知感覚は、意識の志向性を前提とし、物質の刺激によって生起される認知感覚から区別される。メタ認知感覚は、物質的な感覚から自由になりえるため、時間と運動を内包する。
認知感覚は「ある」に関連し、メタ認知感覚は「ある」と「ない」に関連する。境界領域のマウスフィール(口当たり)、スイートネス(甘さ)、クリンネス(透明性)、アブセンス(不在)は、「ある」と「ない」の揺らぎによって現前し、味わいの本質的な意味を表現しえる。
なお、それぞれの表現項目と解釈項目の定義と説明は、この論理体系のみでこれらの意味を持ち、他の論理体系では同じ意味を持ち得ない。
認知感覚の表現項目
認知感覚の表現項目は、アロマ(香り)、テイスト(味)、フレーバー(香りと味)、ボディ(量感)、アフターテイスト(後味)に区分される。これらの項目はそれぞれに対応する感覚が存在する。
それぞれの表現項目(概念領域)には、それぞれに対応する感覚が存在するが、感覚それ自体を表現することはできない。そのため、認知感覚はある概念領域と別の概念領域を持ち出すことによって、つまりシミリー(直喩)によって表現される。ここでは、単語それ自体が文末表現を含んでいるものとみなされ、「〜のような」などの文末表現は省略される。
アロマ(香り)(Aroma)
定義:アロマは、コーヒーの味わいのうち嗅覚から感応される香りである。
コーヒーの味わいのうち、フレーバー(アロマ(香り)+アシディティ(酸味)、ビター(苦味))からアロマ(香り)のみを識別することは困難である。そのため、アロマ(香り)は飲用の前段階で鼻先から感応することで表現される。
テイスト(味)(Taste)
定義:テイストは、コーヒーの味わいのうち味覚から感応される味である。
テイスト(味)は、アシディティ(酸味)とビター(苦味)に区分される、
香り成分は、良質なものであれ悪質なものであれ、すぐに揮発する。しかし、味の成分は長く残存するため、テイスト(味)は抽出から一定時間が経過しアロマ(香り)の抜けた液体を感応することで表現される。
フレーバー(香りと味)(Flavor)
定義:フレーバーは、コーヒーの味わいのうち嗅覚と味覚から感応される香りと味である。
フレーバー(アロマ(香り)+テイスト(味))は、アロマ(香り)とテイスト(味)に区分される。アロマ(香り)は早々に消失するため、フレーバー(アロマ(香り)+テイスト(味))は抽出後の早い段階で液体を感応することで表現される。
ボディ(量感)(Body)
定義:ボディは、コーヒーの味わいのうち触覚から感応される量である。
ボディ(量感)は、量それ自体によって表現される。認知感覚の表現項目うち、ボディ(量感)のみは、ライト(軽)、ミディアム(中)、フル(重)、ストロング(強)、ウィーク(弱)といった感覚それ自体の表現を可能とする。それは、ボディ(量感)がある種の形状の感覚を錯覚させるからである。
アフターテイスト(後味)(Aftertaste)
定義:アフターテイストは、コーヒーの味わいのうち嗅覚から感応される香りの余韻である。
アフターテイスト(後味)は、液体を完全に飲み干した後のアロマ(香り)を感応することによって表現される。多くの場合、飲用段階とは異なったアロマ(香り)が感応される。
認知感覚の解釈項目
認知感覚の解釈項目は、ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質)、タクタイル(質感)に区分される。ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質)は、アロマ(香り)、テイスト(味)、フレーバー(香りと味)、アフターテイスト(後味)に対応する。ボディ(量感)はそれ自体が表現であり、タクタイル(質感)はそれ自体が解釈である。ボディ(量感)がタクタイル(質感)に輪郭を与え、マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感)がこれらを統合する。
認知感覚の解釈項目は、はい/いいえ、良い/悪いの二項対立、あるいは認知感覚の表現項目で用いられた単語の装飾(形容詞など)で表現される。
ポジティブ(快)(Positive)
定義:ポジティブは、コーヒーの味わいのうち感覚に与える快の印象である。
ポジティブ(快)は、不定形で、脆く、消え去りやすい。
ネガティブ(不快)(Negative)
定義:ネガティブは、コーヒーの味わいのうち感覚に与える不快の印象である。
ネガティブ(不快)は、頑固で、執拗で、残りやすい。
ポジティブ(快)もネガティブ(不快)も、感覚に対する単純な反応である。
ボリューム(量)(Volume)
定義:ボリュームは、コーヒーの味わいのうち味覚と嗅覚に与える量の印象である。
ボリューム(量)は、味覚と嗅覚に関連するものとして、触覚に関連するボディ(量感)と区別される。そのため、ボリューム(量)の解釈対象は、アロマ(香り)、テイスト(味)、フレーバー(香りと味)、アフターテイスト(後味)となる。
ボディ(量感)は表現の次元に区分され、ボリューム(量)は解釈の次元に区分される。
クオリティ(質)(Quality)
定義:クオリティは、コーヒーの味わいのうち味覚と嗅覚に与える質の印象である。
クオリティ(質)は、味覚と嗅覚に関連するものとして、触覚に関連するタクタイル(質感)と区別される。そのため、クオリティ(質)の解釈対象は、アロマ(香り)、テイスト(味)、フレーバー(香りと味)、アフターテイスト(後味)となる。
タクタイル(質感)(Tactile)
定義:タクタイルは、コーヒーの味わいのうち触覚から感応される質である。
質感は、認知対象への感覚を引き起こす対象の性質であるが、質感の認知は引き起こされた感覚の認知である。質感はそれ自身が解釈であり、その表現を可能とするのはボディ(量感)である。そのため、タクタイル(質感)とマウスフィール(口当たり)の明確な区分は困難であり、タクタイル(質感)は、表現が解釈を内包しえる。言語表現の例としては、シルキー(なめらかな)、スムース(さらっとした)、ラウンド(まろやかな)、ブライト(明るい)、ダーク(暗い)などがある。
アストリンジェント(収斂味(渋味))は、アシディティ(酸味)とビター(苦味)などに付随するタクタイル(質感)の一種である。
タクタイル(質感)の類義語または同義語として、テクスチャーがあるが、ここでは使用しない。
認知感覚の表現と解釈の境界領域
マウスフィール(口当たり)(Mouthfeel)
定義:マウスフィールは、コーヒーの味わいのうち触覚から感応される量と質、あるいはその印象である。
マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))は、ボディ(量感)とタクタイル(質感)の相乗によって表現され、タクタイル(質感)によって解釈される。
例えば、ボディ(量感)ライト(軽)、ミディアム(中)、フル(重)のいずれであっても、タクタイル(質感)がよければ、マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))は良い解釈となり、タクタイル(質感)が悪ければマウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))は悪い解釈となる。マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))の解釈は、タクタイル(質感)に従属的である。
メタ認知感覚の表現項目
メタ認知感覚の表現項目は、コンプレックス(複雑性)、インテンシティ(強度)、ラスティング(持続性)、デンシティ(密度)、ダイナミクス(強弱)に区分される。
メタ認知感覚は、認知感覚の認知である。認知感覚が「ある」の「今ここ」に関連する認知であるのに対し、メタ認知感覚は「ある」と「ない」の時間と運動に関連する認知である。
メタ認知感覚はさらに、ミクロな次元とマクロな次元に区分される。メタ認知感覚の表現が認知感覚の表現の一項目のみを対象とする場合はミクロな次元の、メタ認知感覚の表現が認知感覚の表現の二つ以上の項目にまたがる場合はマクロな次元の認知となる。
メタ認知感覚の表現は、「ある」に関する高次の認知感覚(「ある」ものがどのように「ある」か)に関連する。
メタ認知感覚は、比喩的あるいは説明的な文章で表現される。例えば、アロマ(香り)がフローラル(花)、アシディティ(酸味)がシトラス(柑橘類)であれば、メタ認知感覚の表現項目では、爽やかなフレッシュフローラル(花)からシトラス(柑橘類)へ移り行く情景の自由な描写が可能である。
コンプレックス(複雑性)(Complex)
定義:コンプレックスとは、コーヒーのテイスティング(味わい)の認知感覚が与える複雑性の認知である。
テイスティング(味わい)が多様性に富んでいるほど、コンプレックス(複雑性)は高まる。コンプレックス(複雑性)は、フレーバー(アロマ(香り)+テイスト(味))と最も強く相関する。
インテンシティ(強度)(Intensity)
定義:インテンシティは、コーヒーのテイスティング(味わい)が認知感覚に与える強度の認知である。
インテンシティ(強度)は、閾値、ボリューム(量)、ボディ(量感)と最も強く相関する。
ラスティング(持続性)(Lasting)
定義:ラスティングは、コーヒーのテイスティング(味わい)が認知感覚に与える持続性の認知である。
ラスティング(持続性)は、アフターテイスト(後味)と最も強く相関する。アフターテイスト(後味)が長いほど、ラスティング(持続性)は高まる。
デンシティ(密度)(Density)
定義:デンシティは、コーヒーのテイスティング(味わい)の認知感覚が与える密度の認知である。
デンシティ(密度)の認知には、主にボリューム(量)とクオリティ(質)、ボディ(量感)とタクタイル(質感)が影響し、ある種の空間認知と関連する。ボリューム(量)とボディ(量感)は大きさに、クオリティ(質)とタクタイル(質感)は厚みに関連する。
ダイナミクス(強弱)(Dynamics)
定義:ダイナミクスは、コーヒーのテイスティング(味わい)が認知感覚に与える強弱の認知である。
ダイナミクス(強弱)の認知には、時間経過と液体の温度の変化、それに伴う香味成分の変化、口内での液体の挙動が影響し、ある種の時間認知と関連する。変化がドラスティック(劇的)であるほど、ダイナミクス(強弱)は高まる。
メタ認知感覚の表現と解釈の境界領域
メタ認知感覚の表現と解釈の境界領域は、クリンネス(透明性)、アブセンス(不在)に区分される。
メタ認知感覚の表現は、「ある」に関する高次の認知感覚(「ある」ものがどのように「ある」か)に関連するのに対し、メタ認知感覚の表現と解釈の境界領域は、「ない」に関連する高次の認知感覚(「あるべきでない」ものが「ない」か、または「あるべき」ものが「ない」か)に関連する。
メタ認知感覚の表現と解釈の境界領域は、ポジティブ(快)とネガティブ(不快)がなぜ反転しえるのかを説明する。
クリンネス(透明性)
定義:クリンネスは、コーヒーのテイスティング(味わい)が認知感覚に与える透明性の認知である。
クリンネス(透明性)は、「あるべきでない」ものが「ない」という高次の認知感覚であり、認知感覚が不在であることへの認知である。このメタ認知感覚は、「べき」から逃れられない。
アブセンス(不在)
定義:アブセンスは、コーヒーのテイスティング(味わい)が認知感覚に与える不在の認知である。
アブセンス(不在)は、「あるべき(あるはずの)」ものが「ない」という高次の認知感覚であり、認知感覚が不在であることの認知である。このメタ認知感覚は、「べき」または「はず」から逃れられない。
クリンネス(透明性)はポジティブ(快)の、アブセンス(不在)はネガティブ(不快)の高次の認知感覚である。「あるべきでない」ものが「ない」と「あるべき(あるはずの)」ものが「ない」は、高次の認知感覚においては「あるべきでない」ものが「ある」と「あるべき」ものが「ある」に反転しえる。そのため、この概念領域では、低次の認知感覚のポジティブ(快)がネガティブ(不快)に、ネガティブ(不快)がポジティブ(快)に反転しえる。
メタ認知感覚の解釈項目
メタ認知感覚の解釈項目は、バランス(均衡)、ユニフォーミティ(統一性)、ハーモニー(調和)、シンフォニー(共鳴)に区分される。
メタ認知感覚の解釈項目は、「ある」と「ない」、時間と運動に関連する高次の認知感覚である。
メタ認知感覚の解釈項目はさらに、静的な次元と動的な次元に区分される。バランス(均衡)とユニフォーミティ(統一性)は静的な次元に、ハーモニー(調和)とシンフォニー(共鳴)は動的な次元に分類される。
バランス(均衡)(Balance)
定義:バランスは、コーヒーのテイスティング(味わい)の認知感覚が与える均衡の印象である。
バランス(均衡)は、飲用の時間軸全体のある点における静的なメタ認知感覚である。
ユニフォーミティ(統一性)(Uniformity)
定義:ユニフォーミティは、コーヒーのテイスティング(味わい)の認知感覚が与える統一性の印象である。
ユニフォーミティ(統一性)は、飲用の時間軸全体における静的なメタ認知感覚である。
ハーモニー(調和)(Harmony)
定義:ハーモニーは、コーヒーのテイスティング(味わい)の認知感覚が与える調和の印象である。
ハーモニー(調和)、飲用の時間軸全体のある点における動的なメタ認知感覚である。
シンフォニー(共鳴)(Symphony)
定義:シンフォニーは、コーヒーのテイスティング(味わい)の認知感覚が与える共鳴の印象である。
シンフォニー(共鳴)は、飲用の時間軸全体における動的なメタ認知感覚である。
認知感覚とメタ認知感覚の境界領域
スイートネス(甘さ)(Sweetness)
定義:スイートネスは、コーヒーのテイスティング(味わい)における甘さの印象である。
コーヒーにおいて、スイートネス(甘さ)の認知感覚は、それに対応する香味成分を必ずしも必要としない。認知感覚においてスイートネス(甘さ)が現前すると、メタ認知感覚においては不在が現前する。スイートネス(甘さ)が認知感覚とメタ認知感覚の境界領域に位置するのは、それがまさに「ある」/「ない」の共存を可能とするためである。
スイートネス(甘さ)は主に、ライトロースト(浅煎り)ではアロマ(香り)とアシディティ(酸味)、ダークロースト(深煎り)ではビター(苦味)とマウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))を拠り所とする。
総合感覚の表現項目
オーバーオール(全体)は、飲用体験全体を表現する。その表現には、認知感覚の表現やメタ認知感覚の表現よりも高度な表現が求められ、その表現は文学的・音楽的な表現となる。
オーバーオール(全体)(Overall)
定義:オーバーオールは、コーヒーのテイスティング(味わい)における飲用体験全体である。
オーバーオール(全体)は、認知感覚の表現やメタ認知感覚の表現によって喚起される。これらの認知感覚は、互いに喚起し合い、集合を形成する。認知感覚が、以前に認知した他の認知感覚と類似性がある場合、現在の認知感覚に対して、以前の認知感覚が喚起される傾向がある。この繰り返しにより、認知感覚はより強固なものになっていき、表現の確実性が高まるが、表現の自由と多様性が失われる。
オーバーオール(全体)は、認知感覚の表現やメタ認知感覚の表現を意図的に白紙状態に戻すことで、自由で多様な表現が可能となる。
総合感覚の解釈項目
インプレッション(印象)(Impression)
定義:インプレッションは、コーヒーのテイスティング(味わい)における飲用体験全体の印象である。
インプレッション(印象)は、体験と記憶の間の揺らぎであり、飲用体験全体を上書き、表現や解釈を逆転させる強い影響力がある。いかなるインプレッション(印象)であれ、何がどのようなインプレッション(印象)を残すかは、個人性に強く左右される。そのため、インプレッション(印象)は、位置付け不可能な領域である。
表現と解釈は、表現する/解釈される、表現される/解釈するの組み合わせにより、作為的な視座の切り替えが可能となる。表現と解釈は、あたかも人間とコーヒーの互換が可能であるかのような認知を人間に与える。
人間によるコーヒーのテイスティング(味わい)の多種多様な試みは、あるべきコーヒーのテイスティング(味わい)を浮かび上がらせる。あるべきコーヒーのテイスティング(味わい)が帰納的に見出され、そこから演繹的に、プロデューサー(生産者)、ロースター(焙煎業者)、ブリュワー(抽出者)、コンシューマー(消費者)などの、コーヒーに関わるすべての人間が表現・解釈される。
ローストレベル(焙煎度)によるテイスティング(味わい)の表現と解釈
ここでは、ライトロースト(浅煎り)は、アシディティ(酸味)が優位(顕性)であり、ビター(苦味)が劣位(潜性)であるローストレベル(焙煎度)、ミディアムロースト(中煎り)は、アシディティ(酸味)とビター(苦味)が均衡付近であるローストレベル(焙煎度)、ダークロースト(深煎り)は、ビター(苦味)が優位(顕性)であり、アシディティ(酸味)が劣位(潜性)であるローストレベル(焙煎度)と定義する。
ローストレベル(焙煎度)は、色(アグロトン値、L値など)から判別されるのではなく、テイスティング(味わい)から判別される。そのため、ローストレベル(焙煎度)は事後的に決まる。これにより、色によるローストレベル(焙煎度)の認知と味わいによるローストレベル(焙煎度)の認知の差は解消される。
これらの定義では、ミディアムロースト(中煎り)が最も曖昧(自由度が高い)なローストレベル(焙煎度)となる。ミディアムロースト(中煎り)は、ミディアムライトロースト(中浅煎り)、ミディアムダークロースト(中浅煎り)など、他のローストレベル(焙煎度)と比較して、より多くの表現が可能となる。
また、ここでは、高温度帯でのテイスティング(味わい)をトップノート、中温度帯をミドルノート、低温度帯をラストノートとする。
以下は、フィルター(ドリップ)を例とする。
ライトロースト(浅煎り)(Light Roast)
一つの例として、ライトロースト(浅煎り)では、このようなテイスティング(味わい)の変化が期待できる。
トップノート(高温度帯):フレーバー(アロマ(香り)+アシディティ(酸味))〜アシディティ(酸味)〜アフターテイスト(後味)
ミドルノート(中温度帯):アシディティ(酸味)〜アシディティ(酸味)+マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))〜アフターテイスト(後味)
ラストノート(低温度帯):マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))+アシディティ(酸味)〜マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))〜アフターテイスト(後味)
口に入れる前の段階 | 口に入れたときの段階 | 口に含んで舌にのせたときの段階 | 飲み干した段階 | 全体と印象 | |
トップノート(高温度帯)の認知感覚の表現 | アロマ(鼻先香) | フレーバー(アロマ(香り)+アシディティ(酸味)) | アシディティ(酸味) | アフターテイスト(後味) | スイートネス(甘さ) |
トップノート(高温度帯)の認知感覚の解釈 | ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | インプレッション(印象)、スイートネス(甘さ) | |
トップノート(高温度帯)のメタ認知感覚の表現 | コンプレックス(複雑性)+デンシティ(密度)、インテンシティ(強度) | コンプレックス(複雑性)+デンシティ(密度)、インテンシティ(強度) | ラスティング(持続性)+コンプレックス(複雑性) | ダイナミックス(強弱)、スイートネス(甘さ) | |
トップノート(高温度帯)のメタ認知感覚の解釈 | クリンネス(透明性)、アブセンス(不在) | クリンネス(透明性)、アブセンス(不在) | クリンネス(透明性)、アブセンス(不在) | バランス(均衡)、ハーモニー(調和)、インプレッション(印象)、スイートネス(甘さ) | |
ミドルノート(中温度帯)の認知感覚の表現 | アロマ(鼻先香) | アシディティ(酸味) | アシディティ(酸味)+マウスフィール(口当たり=ボディ(量感) | アフターテイスト(後味) | スイートネス(甘さ) |
ミドルノート(中温度帯)の認知感覚の解釈 | ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | +タクタイル(質感))、ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | インプレッション(印象)、スイートネス(甘さ) | |
ミドルノート(中温度帯)のメタ認知感覚の表現 | コンプレックス(複雑性) | コンプレックス(複雑性)+デンシティ(密度)、インテンシティ(強度) | ラスティング(持続性)+コンプレックス(複雑性) | ダイナミックス(強弱)、スイートネス(甘さ) | |
ミドルノート(中温度帯)のメタ認知感覚の解釈 | クリンネス(透明性)、アブセンス(不在) | クリンネス(透明性)、アブセンス(不在) | クリンネス(透明性)、アブセンス(不在) | バランス(均衡)、ハーモニー(調和)、インプレッション(印象)、スイートネス(甘さ) | |
ラストノート(低温度帯)の認知感覚の表現 | マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+アシディティ(酸味) | マウスフィール(口当たり=ボディ(量感) | アフターテイスト(後味) | スイートネス(甘さ) | |
ラストノート(低温度帯)の認知感覚の解釈 | +タクタイル(質感))、ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | +タクタイル(質感))、ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | インプレッション(印象)、スイートネス(甘さ) | |
ラストノート(低温度帯)のメタ認知感覚の表現 | インテンシティ(強度)、コンプレックス(複雑性)+デンシティ(密度) | インテンシティ(強度)、デンシティ(密度) | ラスティング(持続性) | スイートネス(甘さ) | |
ラストノート(低温度帯)のメタ認知感覚の解釈 | クリンネス(透明性) | クリンネス(透明性) | クリンネス(透明性) | インプレッション(印象)、スイートネス(甘さ) | |
総合感覚の表現と解釈 | オーバーオール(全体)、インプレッション(印象) | オーバーオール(全体)、インプレッション(印象) | オーバーオール(全体)、インプレッション(印象) | バランス(均衡)、ユニフォーミティ(統一性)、ハーモニー(調和)、シンフォニー(共鳴) |
縦軸に飲用の各段階における各温度帯によるテイスティング(味わい)の変化の表現と解釈、横軸に各温度帯における飲用の各段階による味わいの変化と解釈を掲示している。各飲用段階の「+」は関係性と順序性、「、」は独立性と非順序性を意味している。
トップノート(高温度帯)の上段左〜上段右、ミドルノート(中温度帯)の中段左〜中段右、ラストノート(低温度帯)の下段左〜下段右の順に、表現と解釈をすることになる。各飲用段階における表現と解釈の各項目は、各段階でどの項目が表現・解釈しやすいかを示している。
飲用の前段階で鼻先で香りを感じることは、飲んだときに感じるフレーバー(アロマ(香り)+テイスト(味))から、アロマ(香り)とテイスト(味)を識別する目安になる。しかし、鼻先で感じるアロマ(香り)、口内で感じるアロマ(香り)、飲み干した後のアロマ(香り)は、感覚の違い、液体の変質、口内での挙動などにより、それぞれ異なった認知となる。
トップノート(高温度帯)のアロマ(香り)は、時間経過により香り成分が揮発、さらに嗅覚は非常に早く順応(疲労)するため、トップノート(高温度帯)の液体を口に入れた段階で、アロマ(香り)とフレーバー(アロマ(香り)+アシディティ(酸味))を表現・解釈するのが望ましい。
ライトロースト(浅煎り)のトップノート(高温度帯)のアロマ(香り)の例としては、フローラル(花)、シトラス(柑橘類)、ナッツ(種実類)、ティー(茶)などが挙げられる。フローラルは、高品質のパナマや高品質の他国のゲイシャ、一部のエチオピア ウォッシュトで感応できる。シトラス(柑橘類)のアロマ(香り)は、アシディティ(酸味)と一体となったものとして表現できる。
感覚は、アシディティ(酸味)よりも早くスイートネス(甘さ)に順応(疲労)することで、スイートネス(甘さ)の印象が薄れるため、口に含んで舌にのせたときの段階でアシディティ(酸味)を表現・解釈するのが望ましい。しかし、この段階でも、フレーバー(アロマ(香り)+アシディティ(酸味))由来のスイートネス(甘さ)が優勢であることが期待される。
飲み干した後の段階では、フレーバー(アロマ(香り)+アシディティ(酸味))が長く持続(ラスティング(持続性))し、スイートネス(甘さ)の印象が残ることが期待される。
ミドルノート(中温度帯)の口に入れる前の段階では、アシディティ(酸味)由来のアロマ(香り)を識別できる。ミドルノート(中温度帯)では、口に入れたときの段階でアシディティ(酸味)が、口に含んで舌にのせたときの段階では、マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))が優勢となる。これにより、アシディティ(酸味)+マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))が支配的になる。ミドルノート(中温度帯)でのスイートネス(甘さ)は、アロマ(香り)よりも、アシディティ(酸味)由来が優勢である。アシディティ(酸味)とマウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))、それらの相乗がどのような認知感覚の表現を与えるかは、認知感覚全体の表現・解釈に影響を与える。
ミドルノート(中温度帯)のアシディティ(酸味)の例としては、シトラス(柑橘)、ストーンフルーツ(核果)など、主にフルーティ(果実味)なものが挙げられる。マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))は、ボディ(量感)がライト(軽)の傾向があり、タクタイル(質感)の印象がマウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))の印象を決定づける。マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))の例としては、ボディ(量感)がライト(軽)で、タクタイル(質感)が良質でなめらかである場合はシルキー(絹のような質感)、ボディ(量感)がミディアム(中)寄りでタクタイル(質感)が良質で粘性がある場合はシロッピー(シロップのような質感)、ボディ(量感)がミディアム(中)でタクタイル(質感)が良質である場合はクリーミー(クリームのような質感)などが挙げられる。
ラストノート(低温度帯)では、揮発酸と不揮発酸の成分の違いにより、冷めても甘い、冷めると甘くなる、冷めると甘さを失うものに細分化できる。この段階では、アシディティ(酸味)とマウスフィール(口当たり)のどちらが優勢か、スイートネス(甘さ)が豊かか、不足・欠如しているかによって、クリーミー(クリームのような質感)、シルキー(絹のような質感)、シロッピー(シロップのような質感)他のような認知感覚とその言語表現に影響を与える。
トップノート(高温度帯)の認知感覚の表現の主な対象は、フレーバー(アロマ(香り)+アシディティ(酸味))、ミドルノート(中温度帯)は、アシディティ(酸味)とマウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))、ラストノート(中温度帯)は、マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))となる。全温度帯で、アフターテイスト(後味)はスイートネス(甘さ)とクリーン(透明性)の解釈に強い影響を与える。
スイートネス(甘さ)が不足・欠如し、アシディティ(酸味)のインテンシティ(強度)が強いコーヒーは、トップノート(高温度帯)のアシディティ(酸味)からミドルノート(中温度帯)のアシディティ(酸味)への、テイスティング(味わい)の単調な変化の認知感覚を与える。未熟のフルーツ(果実)のようなアシディティ(酸味)が強すぎると、飲み干すときに喉につかえるような抵抗感を生み、飲みにくさと喉ごしの悪さがアフターテイスト(後味)に関連する項目の低い解釈につながる。さらに、マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))やアフターテイスト(後味)が劣位(潜性)であれば、多項目での解釈の低さにつながる。
テイスティング(味わい)の変化は、産地、精製方法、品種、焙煎プロファイル、抽出方法などよって異なる。
パラゴンの使用は、出来上がる液体の温度が下がるのに加え、香気成分が液体により閉じ込めるため、テイスティング(味わい)全体の認知感覚に変化を与える。
これまでの説明は、主に認知感覚の表現を対象としたテイスティング(味わい)の一例である。他の認知感覚のそれぞれの次元の具体的な説明は、より個別性の高いものとなる。
ミディアムロースト(中煎り)(Medium Roast)
一つの例として、ミディアムロースト(中煎り)では、このようなテイスティング(味わい)の変化が期待できる。
トップノート(高温度帯):フレーバー(アロマ(香り)+テイスト(味=アシディティ(酸味)、ビター(苦味))〜テイスト(味=アシディティ(酸味)、ビター(苦味))〜アフターテイスト(後味)
ミドルノート(中温度帯):テイスト(味=アシディティ(酸味)+ビター(苦味))〜テイスト(味=アシディティ(酸味)+ビター(苦味))+マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))〜アフターテイスト(後味)
ラストノート(低温度帯):マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))+テイスト(味=アシディティ(酸味)、ビター(苦味))〜マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))〜アフターテイスト(後味)
口に入れる前の段階 | 口に入れたときの段階 | 口に含んで舌にのせたときの段階 | 飲み干した段階 | 全体と印象 | |
トップノート(高温度帯)の認知感覚の表現 | アロマ(鼻先香) | フレーバー(アロマ(香り)+テイスト(味=アシディティ(酸味)、ビター(苦味)) | テイスト(味=アシディティ(酸味)、ビター(苦味)) | アフターテイスト(後味) | スイートネス(甘さ) |
トップノート(高温度帯)の認知感覚の解釈 | ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | インプレッション(印象)、スイートネス(甘さ) | |
トップノート(高温度帯)のメタ認知感覚の表現 | コンプレックス(複雑性)+デンシティ(密度)、インテンシティ(強度) | コンプレックス(複雑性)+デンシティ(密度)、インテンシティ(強度) | ラスティング(持続性)+コンプレックス(複雑性) | ダイナミックス(強弱)、スイートネス(甘さ) | |
トップノート(高温度帯)のメタ認知感覚の解釈 | クリンネス(透明性)、アブセンス(不在) | クリンネス(透明性)、アブセンス(不在) | クリンネス(透明性)、アブセンス(不在) | バランス(均衡)、ハーモニー(調和)、インプレッション(印象)、スイートネス(甘さ) | |
ミドルノート(中温度帯)の認知感覚の表現 | アロマ(鼻先香) | テイスト(味=アシディティ(酸味)+ビター(苦味))(酸味) | テイスト(味=アシディティ(酸味)+ビター(苦味))+マウスフィール(口当たり=ボディ(量感) | アフターテイスト(後味) | スイートネス(甘さ) |
ミドルノート(中温度帯)の認知感覚の解釈 | ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | +タクタイル(質感))、ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | インプレッション(印象)、スイートネス(甘さ) | |
ミドルノート(中温度帯)のメタ認知感覚の表現 | コンプレックス(複雑性) | コンプレックス(複雑性)+デンシティ(密度)、インテンシティ(強度) | ラスティング(持続性)+コンプレックス(複雑性) | ダイナミックス(強弱)、スイートネス(甘さ) | |
ミドルノート(中温度帯)のメタ認知感覚の解釈 | クリンネス(透明性)、アブセンス(不在) | クリンネス(透明性)、アブセンス(不在) | クリンネス(透明性)、アブセンス(不在) | バランス(均衡)、ハーモニー(調和)、インプレッション(印象)、スイートネス(甘さ) | |
ラストノート(低温度帯)の認知感覚の表現 | マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+テイスト(味=アシディティ(酸味)、ビター(苦味)) | マウスフィール(口当たり=ボディ(量感) | アフターテイスト(後味) | スイートネス(甘さ) | |
ラストノート(低温度帯)の認知感覚の解釈 | +タクタイル(質感))、ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | +タクタイル(質感))、ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | インプレッション(印象)、スイートネス(甘さ) | |
ラストノート(低温度帯)のメタ認知感覚の表現 | インテンシティ(強度)、コンプレックス(複雑性)+デンシティ(密度) | インテンシティ(強度)、デンシティ(密度) | ラスティング(持続性) | スイートネス(甘さ) | |
ラストノート(低温度帯)のメタ認知感覚の解釈 | クリンネス(透明性) | クリンネス(透明性) | クリンネス(透明性) | インプレッション(印象)、スイートネス(甘さ) | |
総合感覚の表現と解釈 | オーバーオール(全体)、インプレッション(印象) | オーバーオール(全体)、インプレッション(印象) | オーバーオール(全体)、インプレッション(印象) | バランス(均衡)、ユニフォーミティ(統一性)、ハーモニー(調和)、シンフォニー(共鳴) |
ライトロースト(浅煎り)からミディアムロースト(中煎り)へと焙煎が進行すると、アロマ(香り)、フレーバー(アロマ(香り)+アシディティ(酸味)、ビター(苦味))、テイスト(アシディティ(酸味)、ビター(苦味)、マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))、アフターテイスト(後味)のテイスティング(味わい)全体が変質する。
ミディアムロースト(中煎り)におけるトップノート(高温度帯)のアロマ(香り)の例としては、チョコレート、キャラメル、ナッツ、ティー(茶)などが挙げられる。焙煎香の入り混じった「コーヒーらしい」アロマ(香り)を感応できる。
ミドルノート(中温度帯)のテイスト(味=アシディティ(酸味)、ビター(苦味))の例としては、チョコレート、キャラメル、ナッツ、ティー(茶)など、アロマ(香り)と同様のもの、ベリー、グレープ、カシスなど、やや重たく暗めのフルーティ(果実味)なものが挙げられる。マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))は、ボディ(量感)がライト(中)の傾向があり、ボディ(量感)とタクタイル(質感)のバランス(均衡)がマウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))の印象を決定づける。
ライトロースト(浅煎り)と比較して、ミディアムロースト(中煎り)は、コンプレックス(複雑性)、ダイナミックス(強弱)、クリンネス(透明性)が劣位(潜性)、インテンシティ(強度)、デンシティ(密度)、バランス(均衡)が優位(顕性)である傾向がある。スイートネス(甘さ)は、アシディティ(酸味)とビター(苦味)の相反するテイスト(味)とマウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))にバランス(均衡)を与える上で重要な役割を果たす。
アシディティ(酸味)とビター(苦味)のインテンシティ(強度)が強く、スイートネス(甘さ)が不足・欠如したコーヒーは、バランス(均衡)の解釈の低さにつながる。
ダークロースト(深煎り)(Dark Roast)
一つの例として、ダークロースト(深煎り)では、このようなテイスティング(味わい)の変化が期待できる。
ミドルノート(中温度帯):フレーバー(アロマ(香り)+ビター(苦味))〜ビター(苦味)+マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))〜アフターテイスト(後味)
ラストノート(低温度帯):ビター(苦味)+マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))〜マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))+ビター(苦味)〜アフターテイスト(後味)
この例では、低温抽出を想定し、トップノート(高温度帯)は除外した。
口に入れる前の段階 | 口に入れたときの段階 | 口に含んで舌にのせたときの段階 | 飲み干した段階 | 全体と印象 | |
ミドルノート(中温度帯)の認知感覚の表現 | アロマ(鼻先香) | フレーバー(アロマ(香り)+ビター(苦味)) | ビター(苦味)+マウスフィール(口当たり=ボディ(量感) | アフターテイスト(後味) | スイートネス(甘さ) |
ミドルノート(中温度帯)の認知感覚の解釈 | ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | +タクタイル(質感))、ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | インプレッション(印象)、スイートネス(甘さ) | |
ミドルノート(中温度帯)のメタ認知感覚の表現 | コンプレックス(複雑性)+デンシティ(密度)、インテンシティ(強度) | コンプレックス(複雑性)+デンシティ(密度)、インテンシティ(強度) | ラスティング(持続性)+コンプレックス(複雑性) | スイートネス(甘さ) | |
ミドルノート(中温度帯)のメタ認知感覚の解釈 | クリンネス(透明性)、アブセンス(不在) | クリンネス(透明性)、アブセンス(不在) | クリンネス(透明性)、アブセンス(不在) | バランス(均衡)、ハーモニー(調和)、インプレッション(印象)、スイートネス(甘さ) | |
ラストノート(低温度帯)の認知感覚の表現 | ビター(苦味)+マウスフィール(口当たり=ボディ(量感) | マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+ビター(苦味) | アフターテイスト(後味) | スイートネス(甘さ) | |
ラストノート(低温度帯)の認知感覚の解釈 | +タクタイル(質感))、ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | +タクタイル(質感))、ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | ポジティブ(快)、ネガティブ(不快)、ボリューム(量)、クオリティ(質) | インプレッション(印象)、スイートネス(甘さ) | |
ラストノート(低温度帯)のメタ認知感覚の表現 | インテンシティ(強度)、コンプレックス(複雑性)+デンシティ(密度) | インテンシティ(強度)、デンシティ(密度) | ラスティング(持続性) | スイートネス(甘さ) | |
ラストノート(低温度帯)のメタ認知感覚の解釈 | クリンネス(透明性) | クリンネス(透明性) | クリンネス(透明性) | インプレッション(印象)、スイートネス(甘さ) | |
総合感覚の表現と解釈 | オーバーオール(全体)、インプレッション(印象) | オーバーオール(全体)、インプレッション(印象) | オーバーオール(全体)、インプレッション(印象) | バランス(均衡)、ユニフォーミティ(統一性)、ハーモニー(調和)、シンフォニー(共鳴) |
ダークロースト(深煎り)は、ビター(苦味)が優位(顕性)であり、、アロマ(香り)とアシディティ(酸味)は劣性(潜性)である。ビター(苦味)の閾値は非常に低いことから、クリンネス(透明性)は低く、インテンシティ(強度)は高い傾向にある。また、低温で抽出することを想定していることから、ダイナミックス(強弱)は低い傾向にあるが、ダークロースト(深煎り)に特有のスイートネス(甘さ)は、ダイナミックス(強弱)を高められる。
マンデリンのアーシーなど、ダークロースト(深煎り)で明確なアロマ(香り)、除外しているが、マンデリンのグアバやケニアのカシスのようなダークロースト(深煎り)で明確なアシディティ(酸味)は、ビター(苦味)、マウスフィール(口当たり=ボディ(量感)+タクタイル(質感))との相乗により、コンプレックス(複雑性)を高める。
濃度(TDS)と収率(EY)を極限まで高めたダークロースト(深煎り)におけるスイートネス(甘さ)の形成は、必然的にインテンシティ(強度)を非常に強くする。この場合における非常に強いインテンシティ(強度)は、他の感覚を麻痺させ、スイートネス(甘さ)の印象を強く残す。このため、スイートネス(甘さ)に優れたダークロースト(深煎り)は、擬似的にクリンネス(透明性)の印象を与えられる。