
スッコット・ラセモサ・コーヒーとラセモサ種
スッコット・ラセモサ・コーヒー
スッコット・ラセモサ・コーヒー(Sukkot Racemosa Coffee)は、南アフリカ共和国(Republic of South Africa)クワズール=ナタール州(KwaZulu-Natal province)フルフルウェ(Hluhluwe)に位置する農園です。
2003年1月8日、モザンビークとクワズール=ナタールでコフィア・ラセモサ(Coffea racemosa)の種子が採取されました。以降、地元の農家や研究者たちが協力し、この種子の保存と繁殖に力を注いできました。フルフルウェは、安定して生育できる地球上でも数少ない場所として評価されました。
農園の面積はおよそ2ヘクタール。標高74mという低標高にありながら、ミネラル豊富な赤色玄武岩土壌が広がっています。この土壌は根の発達と栄養吸収を促し、植物の力強くもゆっくりとした成長に寄与しています。また、フルフルウェの熱帯乾燥気候は、長い乾季と不均一な雨季を特徴としながらも、厳しい条件は決して不利ではなく、ラセモサ種に特異な自然環境を提供しています。
ラセモサ種
コフィア・ラセモサ(Coffea racemosa)は、南アフリカ共和国クワズール=ナタール州北部からモザンビークにかけて広がる沿岸の森林地帯に固有の希少なコーヒー種です。遺伝的にはアラビカ種やロブスタ種とほとんど共通点を持たず、独自の二倍体系ゲノムを有する完全に独立した種です。
1960~1970年代にはモザンビークでポルトガル人によって比較的広く栽培されていましたが、今日その栽培が継続しているのはイボ島とスッコット・ラセモサ・コーヒーの2つのみです。
生産量は世界コーヒー生産量の約0.001%以下であり、商業的な栽培がほぼ行われていません。収量も非常に限られており、一般的なアラビカ種のコーヒーノキ1本分の収穫量を得るためには、ラセモサ種のコーヒーノキを6本育てる必要があります。さらに豆の大きさはアラビカ種の約3分の1と小ぶりで、大規模生産には不向きです。
もう一つの特徴は、天然の低カフェイン性です。平均的なカフェイン含有量はアラビカ種の半分、ロブスタ種の4分の1以下であり、研究によっては0.38~0.83%という極めて低い数値も示されています。
また、ラセモサ種は極めて高い環境適応力を誇ります。乾燥した不毛な土壌でも生育可能で、最小限の降雨量でも成長し、干ばつに強く、病害虫にも高い耐性を示します。こうした特性から、コーヒー品種改良の分野でも貴重な遺伝資源とされており、気候変動や作物病害に対応する新しい交配の研究において有望視されています。

