コーヒーの新しい精製方法 ニューナチュラルズ、アナエロビック・ファーメンテーション(嫌気性発酵)、カーボニック・マセレーション
コーヒーの新しい精製方法
現在、ナチュラル(Natural)と呼ばれているコーヒーの精製方法は、かつては「アンウォッシュト(非水洗式)」、「ドライ・プロセス」と呼ばれていました。ナチュラルという名称は、これらに付き纏っていたネガティブな印象を払拭するために作られた新しい名称です。
ナチュラルとは、マーケティングに精通したブラジル人が、それまで「アンウォッシュト」、「ドライ・プロセス」と呼ばれていたコーヒーを表現するために、数年前に考え出したポジティブな名称である。ウォッシュト(またはウェット・プロセス)コーヒーのように果実を取り除いた後ではなく、果実の中で乾燥させた豆で構成されたコーヒーである。ウェット・プロセスは、収穫後すぐに果実を取り除き、乾燥させる方法であり、果実の残滓を取り除くことで、乾燥中に糖分が発酵してカビが生える可能性が低いため、高級コーヒーの世界では好まれている。
しかし、ドライ・プロセスはコストが安く、機械も必要ないため、世界の安価なコーヒーのほとんど(ロブスタ種も含む)がドライ・プロセスで、しかも不用意にドライ・プロセスされる傾向にあり、ドライ・プロセス全体の悪評を呼んでいる。
しかし、世界の乾燥した土地で生産されたコーヒーは、果実に包まれた豆がカビを発生させることなく天日で乾燥させることができるため、ドライ・イン・ザ・フルーツ・スタイルの上質なコーヒーを生産することができる。アラビア半島南西部の乾燥した山岳地帯イエメン、エチオピア北東部の古都ハラール、ブラジルのサバンナのような高原地帯などである。特にイエメンとハラールでは、乾燥させた果実が(うまくいけば)ブランデーのようなクリーンな果実の特徴をコーヒーに与え、軽く発酵しているがカビは生えていない。特にブルーベリーの甘く豊かな香りは、このような創造的な発酵コーヒーと結びついている。
Natural is a positive name marketing-savvy Brazilians came up with some years ago to describe coffees that until that time were called “unwashed” or “dry-processed.” These are coffees consisting of beans that were dried inside the fruit, rather than after the fruit was removed, as is the case with “washed” (or wet-processed) coffees. Wet-processing, or removing the fruit immediately after harvesting but before drying, is the favored approach throughout most of the fine coffee world because removing the fruit residue reduces the possibility that sugars will ferment and attract mold during the drying process.
However, dry-processing is cheap and requires no fancy machinery, which means that most of the world’s inexpensive coffees (including almost all Robustas) tend to be dry-processed, and dry-processed carelessly, thus giving the entire dry-processing procedure a bad name.
Nevertheless, coffee produced in certain dry-weather places in the world where the fruit-encased beans can be easily sun-dried without getting rewetted and attracting molds continue to produce interesting and occasionally very fine versions of the dried-in-the-fruit style. These places include Yemen, the dry, mountainous region at the southwest corner of the Arabian Peninsula; Harrar, the northeastern part of Ethiopia surrounding the ancient capital of that name, and the savannah-like plateaus of Brazil. Yemen and Harrar in particular produce coffees in which the drying fruit can (if all goes well) impart to the coffee a clean brandy-like fruit character, lightly fermented but free of molds. The sweet, lush aroma of blueberry in particular has become associated with these creatively fermented coffees.
Kenneth Davids"BRANDY AND SURPRISES: THE NEW NATURALS", Coffee Review 2010年11月4日.
アンウォッシュト(ドライ・プロセス)は伝統的に、湿度の低い乾燥地帯で採用される精製方法でした。しかし2005年頃から、一部の生産者と焙煎業者・輸入業者は、高級コーヒーの主たる精製方法がウォッシュト(ウェット・プロセス)である湿度の高い地域で、ナチュラルの精製方法を採用することに決めました。この湿度の高い地域で行われる新しいナチュラルは、「ニューナチュラルズ(New Naturals)」と呼ばれました。
ニューナチュラルズ
ニューナチュラルズは、2005年にスターバックスのブラック・エプロン・エクスクルーシブス™(Black Apron Exclusives™)から発売されたシャキーナ・サン・ドライド・シダモ(Shirkina Sun-Dried Sidamo)から広まりました。エチオピアの南部と南西部は比較的湿度の高い地域で、アンウォッシュト(ドライ・プロセス)はウォッシュト(ウェット・プロセス)では不十分と評価されたコーヒーに後付けで適用させる精製方法でした。
シダマコーヒー農家協同組合のゼネラルマネージャー、アスナケ・ベケレは、「ナチュラル精製が、その年の最高のコーヒーを台無しにしてしまうのではないかと不安だった」と語る。「しかし、スターバックスは、プレミアム価格でコーヒーを購入することを前もって保証してくれた。これは彼らにとって大きなリスクだったが、私たちのパートナーシップに対する彼らのコミットメントを示すものだった」。
"We were nervous that the natural process would ruin our best coffees of the year," says Asnake Bekele, General Manager of Sidama Coffee Farmers Cooperative Union, Ltd. "But Starbucks guaranteed purchase of the coffee, at premium prices, up front. This was a huge risk for them, but it illustrated their commitment to our partnership."
"Savor Shirkina Sun-Dried Sidamo Exclusively at Starbucks; Taking a Risk, Starbucks Helps Create New Coffee, Potential New Revenue Stream for Farmers",3BL CSRwire 2005年10月5日.
アナエロビック・ファーメンテーション(嫌気性発酵)
コーヒーでは、生産段階の精製工程において発酵が生じます。この発酵は通常、ウォッシュトでもナチュラルでも酸素のある状態(好気性)での微生物の活動によるものです。
アナエロビック・ファーメンテーション(Anaerobic Fermentation)は、コーヒーチェリーをタンクに閉じ込め、酸素のない状態(嫌気性)で発酵させる精製方法です。嫌気性環境で、酸素のある状態では活動しなかった微生物が活動することで、独特のフレーバーを生むことが期待されます。
アナエロビック・ファーメンテーションは、コスタリカのカフェ・デ・アルトゥラ(Café de Altura)のエステバン・ヴィラロボス・コラレス(Esteban Villalobos Corrales)が始めた精製方法です。エステバンは、2014年のコスタリカ カップ・オブ・エクセレンス(CoE)(Cup of Excellence)に、「エル・ディアマンテ(El Diamante)」と名付けたアナエロビック・ファーメンテーションのロットを出品しました。このロットは、88.80点を獲得し第7位に入賞しました。
ちなみに、コーヒー業界では「アナエロビック(Anaerobic)」という呼称が定着していますが、微生物学的には「アネロビック(Anaerobic)」という呼称です。
Fun with Ferment: Anaerobically Processed Coffees:https://www.kennethdavidscoffee.com/blogs/news/fun-with-ferment-anaerobically-processed-coffees
ANAEROBIC FERMENTATION AND OTHER PALATE-BENDING PROCESSING EXPERIMENTS:https://www.coffeereview.com/anaerobic-fermentation-and-other-palate-bending-processing-experiments/
カーボニック・マセレーション
カーボニック・マセレーション(Carbonic Maceration)は、フラージュ(Foulage、破砕)の前に二酸化炭素の多い環境でぶどうを発酵させる、フランスのボジョレー(Beaujolais)でよく用いられるワインの製造技術です。コーヒーのカーボニック・マセレーションは、この手法をコーヒーに転用した精製方法です。
コーヒーチェリーを収穫後、果肉が付いた状態でステンレス・タンクの中に密閉します。すると、酵母の働きによって、二酸化炭素などを中心とするガスがタンクの中に充満します。爆発を防ぐためにタンクの天井に設けられたワンウェイ・バルブから酸素が抜けることによって、果肉の嫌気発酵が進みます。この過程で生じる化学反応が独特のフレーバーを生むことが期待されます。
カーボニック・マセレーションは、オーストラリアのバリスタであるササ・セスティック(Sasa Sestic)が有名にした精製方法です、彼は、2015年のワールド・バリスタ・チャンピオンシップ(WBC)(World Barista Championship)で、おそらくコロンビア インマクラーダ・コーヒー・ファームス(Inmaculada Coffee Farms)のルメ・スダン(Rume Sudan)のカーボニック・マセレーションとウォッシュトの混合ロットを使用し優勝しました。
A Guide to Carbonic Maceration and Anaerobic Fermentation in Coffee:https://dailycoffeenews.com/2019/06/03/a-guide-to-carbonic-maceration-and-anaerobic-fermentation-in-coffee/
コーヒーの付加価値
コーヒー産業は、コーヒーが生産国を離れた後に付加価値が付けられるという仕組みを伝統的に維持してきました。そのため、生産者が受け取る最終価格の割合は、他のステークホルダーよりも低いのが一般的です。しかし、生産者が生産国での付加価値を高め、価格を上げる方法は存在します。
1つは、生産国での焙煎です。コーヒーの付加価値は、その大部分が消費国の輸入業者・小売業者・焙煎業者によって加えられます。生産国での焙煎は、コーヒーの価値を生産国でより多く保持することを可能にします。
もう1つは、コーヒーの精製技術の革新です。革新的な技術で精製されたコーヒーは高価で取引されるため、生豆の付加価値を高める可能性を秘めています。