
コーヒーの抽出理論とその変遷 ゴールドカップ調査とヨーロッパの嗜好
ゴールドカップ調査とヨーロッパの嗜好
コーヒー抽出における科学的基準は、1960年代にアメリカ合衆国のコーヒー抽出研究所(CBI)(Coffee Brewing Institute)/コーヒー抽出センター(CBC)(Coffee Brewing Center)が定義した理想的抽出=総溶解固形分(TDS)1.15~1.35%、収率(EY)18~22%に基づいていた。この基準は後にノルウェーコーヒー協会(NKI)(英語:Norwegian Coffee Association、ノルウェー語では、ノルウェーコーヒー情報(NKI)(Norsk Kaffeinformasjon)、アメリカスペシャルティコーヒー協会(SCAA)(Specialty Coffee Association of America)、ヨーロッパスペシャルティコーヒー協会(SCAE)(Specialty Coffee Association of Europe)などで国際的規格として採用された。
しかし、実際の消費者嗜好がこれらの抽出パラメータと一致するのかは長らく検証されていなかった。このギャップを埋めるため、2010年に約50年ぶりにヨーロッパスペシャルティコーヒー協会(SCAE)が調査を実施した。

この調査では、スペシャルティグレードのシングルオリジン・アラビカのミディアムロースト(アグトロン 58(豆)/63(粉)±1、焙煎時間8~12分、空冷し、焙煎後8日以内に試験を実施)が使用された。抽出液の濃度(TDS)を1.33%で統一し、収率(EY)を16%・18%・20%・22%・24%の5段階で準備した。
抽出条件(機材・粉粒度・水質・温度)は厳密に管理された。自動バッチ式抽出機(容量≥3 L)、調整済みグラインダー(粒子分布の少なくとも45%が600~800μmになるように設定)、硬度100~175ppmのろ過水を使用、抽出サイクルの90%において水温は92~96℃に維持された。
各地の参加者がランダム化された5サンプルをブラインドで試飲し、嗜好を数値化した。
2011年2月から10月にかけてヨーロッパ4都市で実施された。参加者は、ダブリン(アイルランド、188名)、マーストリヒト(オランダ、232名)、ケルン(ドイツ、131名)、ミラノ(イタリア、90名)、総数は641名である。
地域別での調査の結果、ダブリンでは、20%が最も好評(約66.1%)、次に22%。18%が最も不評であった。マーストリヒトでは、22%が最も好評(70.2%)、次に20%。18%が最も不評であった。ケルンでは、22%が最も好評(62.1%)、次に24%、16%が圧倒的に不評(70.2%)であった。ミラノでは、24%が最も好評(54.8%)、次に20%。エスプレッソ文化を反映し、濃い抽出への嗜好が強い結果であった。共通の傾向として、最も不評だったのは18%であった。

総合結果としては、参加者の62%が18~22%のコーヒーを好んだ。43.8%が20~22%に集中し、22%が最も一貫して支持された抽出率として浮上した。最も不評だったのは16%と18%で、抽出不足の風味特性と関連付けられた。
この調査結果は、1960年代に確立された18~22%の収率範囲が依然有効であることを裏付けた。ただし実際の消費者嗜好は、この範囲に均等に分布していない。データはむしろ、より高い抽出レベル(20~22%)への顕著なシフトを示しており、地域ごとの差異が認められる。特にイタリアではエスプレッソ文化の影響で24%が好まれる傾向がある。
この傾向は、スペシャルティコーヒー教育で広く説かれる18~20%が最適域という通説とは対照的である。この結果は、現行のトレーニング基準が、より高濃度で発達した抽出プロファイルに対する消費者の嗜好を過小評価している可能性を示唆している。