グアテマラ エル・インヘルト農園の歴史 カップ・オブ・エクセレンス、パカマラ、プライベート・オークション
エル・インヘルト農園
エル・インヘルト農園(Finca El Injerto)は、グアテマラ(Guatemala)ウエウエテナンゴ県(Huehuetenango Department)ラ・リベルタード(La Libertad)に位置する農園です。コーヒー生産地域としては、ハイランド・ウエウエ(Highland Huehue)に区分されます。
歴史
エル・インヘルト農園は、グアテマラのスペシャルティコーヒー生産で最も有名な農園の1つです。
ヘスス・アギーレ・パナマ(Jesús Aguirre Panamá)は、現在エル・インヘルト農園として知られているこの農園の最初の所有者です。彼は1874年にこの農園を購入し、トウモロコシ、豆、タバコ、サトウキビの栽培と砂糖を固化したパネラ(Panela)の製造を始めました。(このパネラを水に溶かした「アグアパネラ(Aguapanela)」は、中米でよく飲まれている飲み物です)。彼は1900年頃にコーヒーの栽培を始め、農園は「インヘルト(Injerto)」というこの地域に自生する「サポテ(Zapote)」のような果物から、「エル・インヘルト(El Injerto)」と名付けられました。
ヘスス・アギーレの死後、この農園は2人の息子に譲渡されたため、ペニャ・ブランカ(Pena Blanca)という川を挟んで、1939年から「エル・インヘルト・ウーノ(El InjertoⅠ)」と「エル・インヘルト・ドス(El Injerto Ⅱ)」という2つのエリアに区分されています。
現在エル・インヘルト農園は、アギーレ家の第3世代アルトゥロ・アギーレ・エスコバル(Arturo Aguirre Escobar)と第4世代アルトゥロ・アギーレ・ジュニア(Arturo Aguirre Jr.)によって管理されています。
第3世代のアギーレ・エスコバルは、1956年から農園で働いています。その当時、農園のコーヒー生産量は1袋100ポンド換算で約300袋程度でしたが、彼はそこから、エル・インヘルト農園を現在の大農園にまで成長させました。
環境
エル・インヘルト農園は、標高1,500m - 1,920mの高地にあり、平均気温22℃、年間降水量1,800mm - 2,000mm、湿度70%、日照時間7時間から8時間の恵まれた環境でコーヒーが生産されます。
シエラ・デ・ロス・クチュマタネス(スペイン語:Sierra de los Cuchumatanes)から吹き下ろす冷気と、メキシコ(Mexico)オアハカ(Oaxaca)のテウアンテペック地峡(英語:Isthmus of Tehuantepec、スペイン語:Istmo de Tehuantepec)の高原地帯から吹き付ける暖気がぶつかり合うことでマイクロクライメイト(微気候)を生み出し、標高の高いこの地域を霜害から守っています。また、熱帯性の低木が、石灰性の土壌を覆い守っています。
エル・インヘルト農園は、敷地総面積750ヘクタールの広大な農園です。750ヘクタールの内、400ヘクタールでコーヒー、果実、穀物、観葉植物が栽培されています。コーヒー農園は、245ヘクタールです。
これらの栽培地は、残り350ヘクタールを占める1,000年前から未開拓の原生林に囲まれています。この森が特殊なマイクロクライメイト(微気候)を生み出し、豊かな土壌を育み、山中の泉の清らかな湧き水を提供します。 また、農園では、除草剤や殺虫剤を使用せずにミミズや堆肥を用いた有機栽培が行われています。この豊かな環境が、高品質なコーヒー生産を可能にする秘密となっています。
シェードツリーには、インガ(Inga spp)、グレビレア(Gravillea robusta)、マカダミア(Macadamia integrifolia)が植えられています。
社会的責任
エル・インヘルト農園では、定期労働者と臨時労働者の両方に住居が用意され、電力、浴室、飲料水、衣類用流し台、食堂などの基本的なサービスをすべて提供しています。
電力は、環境負荷が少なく1000kW以上を発電する2つの水力発電所から供給されています。農園で使用する水は、特殊なフィルターで浄化され、再び使用されます。
コーヒーのパルプはワーム・コンポスト(Worm Compost)を作るために利用され、パーチメントは乾燥機のオーブンに利用されます。
農園内には、労働者のための安全用品店があります。また、労働者は、機械やコンピューターの講座が受けられます。一般的な病気の症状を軽減するための薬の提供も行なっています。
認証
エル・インヘルト農園は、10年以上にわたってレインフォレスト・アライアンス認証(RainForest Alliance Certified)を取得しています。また、農園は、カーボン・ニュートラル認証(CO2 NEUTRAL Certified)を取得したグアテマラで最初のコーヒー農園です。
コーヒーショップ
エル・インヘルト農園は、地元の人にも最高品質のコーヒーを味わってほしいと、地元にもコーヒーを卸しています。農園は、ディートリッヒ社のディートリッヒ IR-24(Diedrich IR-24)という焙煎機を所有しており、農園で生産したコーヒーを農園が所有する焙煎機で焙煎し、コーヒー・ショップに提供することができます。
品種
エル・インヘルト農園では、レッド・ブルボン(Bourbon Rojo)、レッド・カツアイ(Red Catuai)、パカマラ(Pacamara)、カツアイ・アマレロ(Catuai Amarelo)、マラゴジッペ(Maragogipe)、パナマ・ゲイシャ(Geisha Panama)、マラウィ・ゲイシャ(Geisha Malawi)、SL-28、モカ(Mocca)が栽培されており、他にも試験的に栽培されている品種があります。
他にも、イエロー・カツーラ(Yellow Caturra)とイエロー・カツアイ(Yellow Catuai)の混合ロットであるイエローナンセ(Yellow Nance)、混植区画から採れるトラディショナル(Traditional)というロットがあります。
エル・インヘルト農園では、標高ごとに様々な品種を栽培し、さらに同じ標高においても細かく区画を分けてコーヒーを栽培しています。パカマラとゲイシャは、パンドラ(Pandora)、パタゴニア(Patagonia)、 ラ・カラカ(La Calaca)という3つの区画で栽培されています。マラゴジッペは、タンザニア(Tanzania)という区画で栽培されています。
カップ・オブ・エクセレンス
パカマラ
エル・インヘルト農園のパカマラは、世界で最も高く評価されているコーヒーの1つで、エル・インヘルト農園を世界的な有名農園にした品種です。
エル・インヘルト農園は、1990年代にエルサルバドルからパカマラを持ち帰り、栽培を始めました。エル・インヘルト農園のパカマラは、2008年のグアテマラ カップ・オブ・エクセレンス(CoE)(Cup of Excellence)で93.68点を獲得し第1位で優勝、グアテマラのオークションの当時史上最高額、1ポンドあたり80.20ドルで落札されました。そして、その翌年の2009年に91.98点を獲得し第1位で優勝、2010年に90.09点を獲得し第1位で優勝、史上初の3連覇を成し遂げました。カップ・オブ・エクセレンス(CoE)で3年連続第1位に輝いた農園は、いまだにエル・インヘルト農園以外にはありません。
エル・インヘルト農園のパカマラはその後、2012年に92.47点を獲得し第1位で優勝、2013年に93.14点を獲得し第1位で優勝、2014年に90.08点を獲得し第2位に入賞、2015年に90.72点を獲得し第1位で優勝、2016年に91.06点を獲得し第3位に入賞、2018年に86.13点を獲得し第31位に入賞、2019年に90.03点を獲得し第3位に入賞しています。
ゲイシャ
ゲイシャは、1930年代にエチオピアのゲシャ地方で発見されたエチオピア起源の野生種です。
現在栽培されているゲイシャは、アフリカに由来するゲイシャと中米に由来するゲイシャの大きく2つの系統に分かれます。エル・インヘルト農園は、これら2つの系統のゲイシャを栽培しており、アフリカ由来のゲイシャを「ゲイシャ・ルビー・マラウィ(Geisha Rubi Malawi)」、中米由来のゲイシャを「レジェンダリー・ゲイシャ(Legendary Geisha)」と呼んでいます。
ゲイシャ・ルビー・マラウィは、完熟実がルビーのように輝くことから「ルビー」の名がつきました。
レジェンダリー・ゲイシャは、アギーレ・エスコバルがパナマに旅行した際、友人付き合いのあるパナマのエスメラルダ農園から譲り受けたゲイシャです。レジェンダリー・ゲイシャは、エスメラルダ農園のゲイシャが「レジェンダリー(伝説)」として評価されていることからその名が付きました。
レジェンダリー・ゲイシャは、2017年に90.19点を獲得し第2位に入賞しました。このロットは、パンドラ、パタゴニア、 ラ・カラカの3つの区画で栽培されたゲイシャをブレンドしたものでした。
ブルボン・テキシック
その他では、2002年に第3位に入賞、2006年にブルボン・テキシック(Bourbon Tekisic)で92.57点を獲得し第1位で優勝、2007年にブルボン・テキシックで88.28点を獲得し第6位に入賞、2011年にマラゴジッペ(Maragogipe)で89.58点を獲得し第3位に入賞しています。
ブルボン・テキシックは、2006年にエル・インヘルト農園がカップ・オブ・エクセレンス(CoE)で初優勝した品種です。
このように、エル・インヘルト農園は、グアテマラでカップ・オブ・エクセレンス(CoE)が始まった2001年から、ほぼ毎年のように上位に入賞しています。パカマラでの優勝回数が6回、ブルボン・テキシックでの優勝回数が1回の、計7回の優勝経験を誇ります。
レゼルバ・デル・コメンダドール
エル・インヘルト農園は、2011年から「レゼルバ・デル・コメンダドール(Reserva del Comendador)」というプライベート・オークションを開催しています。
ミクロ・モカ(Micro-Mocca)と呼ばれるエル・インヘルト農園のモカは、2011年のレゼルバ・デル・コメンダドールで1ポンドあたり211.5ドルと高額で落札され、翌年の2012年に1ポンドあたり500.50ドルのレゼルバ・デル・コメンダドール史上最高価格で落札されたことがあります。
収穫
収穫は熟練のピッカーによって、完熟実のみが手摘みされます。エル・インヘルト農園に熟練のピッカーが集まるのは、この農園の賃金と労働環境が群を抜いて良く、農園が労働者への徹底的なケアを行っているためです。労働環境の改善と労働者への徹底的なケアの結果、コーヒーの品質が向上し、その利益によってさらなる改善が可能になるという好循環が生まれました。
精製方法
ウェット・ミル
エル・インヘルト農園では、ウォッシュト(Washed)とナチュラル(Natural)の精製方法が採用されています。
エル・インヘルト農園のウォッシュトは、収穫されたコーヒーチェリーをパルピング(果肉除去)後、特別な水槽で発酵処理されます。山から流れてくる綺麗な湧き水で水洗いされた後、24時間ソーキング(水に浸けること)され、パティオまたはアフリカン・ベッドで乾燥されます。
エル・インヘルト農園は、収穫、ウェット・ミル(果肉除去・水洗処理・乾燥処理)、ドライ・ミル(脱穀・選別)、輸出まですべての工程を独自に行う稀有な農園です。
また、エル・インヘルト農園は、品質を保証するため、他の農園からコーヒーチェリーやパーチメントを購入することなく、自らの農園で生産したコーヒーのみを処理します。
ドライ・ミル
エル・インヘルト農園は、パーチメントを脱穀する特別な機器を有しており、これは生産したコーヒーを農園から直接消費国へと輸出することを可能にします。コーヒーはパーチメントから生豆にする過程で、重量、サイズ、密度によって分類されます。最終的に行われるカッピングによって、品質管理が完了します。
ラス・マカダミアス農園
エル・インヘルト農園は、農園内にラス・マカダミアス農園(Finca Las Macadamias)という試験農園を有しています。この農園は、エル・インヘルト農園の南側に位置しています。
カップ・オブ・エクセレンス
エル・インヘルト農園と同様に、ラス・マカダミアス農園もまた、グアテマラ カップ・オブ・エクセレンス(CoE)の常連です。
2009年にブルボンで89.33点を獲得し第3位に入賞、2010年にブルボンで89.80点を獲得し第3位に入賞、2011年はブルボンで88.72点を獲得し第5位に入賞、2012年はブルボンで88.28点を獲得し第5位に入賞、2013年はブルボンで88.94点を獲得し第8位に入賞、2014年はブルボンで87.22点を獲得し第7位に入賞、2015年はブルボンで88.38点を獲得し第6位に入賞しています。2009年から2015年まではすべてブルボンでの出品です。
ラス・マカダミアス農園では、ほとんどの場所でブルボンとカツアイが混植されており、上部の小さなエリアのみでブルボンが100%栽培されています。
近年は、ブルボン以外の品種での出品が目立ちます。
2016年は品種不明で89.18点を獲得し第7位に入賞、2017年はゲイシャ・マラウィ(Gesha Malawi)で89.69点を獲得し第3位に入賞しています。
ラス・マカダミアス農園のパカマラは2018年に初めて出品され、87.73点を獲得し第14位に入賞しました。そして、パカマラは2019年に90.16点を獲得し第1位に輝きました。ラス・マカダミアス農園名義では、これが初めての優勝です。
エル・インヘルト農園(Finca El Injerto):https://real-coffee.net/category/coffee-origin/central-america/guatemala/highland-huehue/finca-el-injerto