コピ・ルアク(コピ・ルアック)の歴史
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コピ・ルアク(コピ・ルアック)の歴史

コピ・ルアク コピ・ルアック

"Our World Coffee's Cruel Secret - Kopi Luwak - civet cats - Indonesia",Andrew Hancock 2013年9月16日.

コピ・ルアク(Kopi Luwak)(または、コピ・ムサン(Kopi Musang))は、ジャコウネコの消化プロセスを利用したコーヒーです。

コピ・ルアク(Kopi Luwak)の「コピ(Kopi)」は、インドネシア語で「コーヒー」です。また、インドネシア語の「ルアク、ルアック(Luwak)」とマレー語の「ムサン(Musang)」は「ジャコウネコ」の意味で、コピ・ルアク(コピ・ムサン)は、「ジャコウネコのコーヒー」という意味になります。インドネシアのジャワ島で生産されると「コピ・ルアク」と呼ばれますが、スマトラ島はマレー語の起源と言われているため、スマトラ島で生産されると「コピ・ムサン」と呼ばれます。

ルアク・コーヒーの歴史は、1825年にジャワ島でジャワ戦争、1821年から1837年にスマトラ島でパドリ戦争が勃発し、インドネシアで反オランダ気運が高まった時期に遡ります。これらの戦争や財政運営に失敗によって財政難に苦しんだオランダは、ジャワ島で「栽培制度(Cultuurstelsel)」という強制栽培制度を開始しました。

現地農家はこの制度によって、コーヒーはもとより、サトウキビや茶などの栽培を強制されました。現地農家が栽培したコーヒーは、オランダ政府によって輸出目的に搾取され、彼らが個人的に消費するためのコーヒーは残されませんでした。彼らは野生のジャコウネコの糞の中にコーヒー豆が、まだ消化されずに残されているのを見つけ、それを処理して飲んでいました。やがてオランダの領主がこれに気付き、どこで入手したのかを彼らを問いただしました。個人消費のためにコーヒーを持っていることは、窃盗を意味したためです。農家はジャコウネコの糞の中から、コーヒー豆が採取できることを説明しました。オランダの植民者は、このジャコウネコのコーヒーが特別な香味を持っていることにすぐに気付き、重宝しました。これがまことしやかに語られるルアク・コーヒーの始まりです。

知名度の上昇と動物虐待

1991年にトニー・ワイルド(Tony Wild)というイギリス人がインドネシアを訪れ、コピ・ルアクを持ち帰り、ヨーロッパに紹介しました。実はこの人物、後に『コーヒーの真実―世界中を虜にした嗜好品の歴史と現在(原題:Coffee:A Dark History)』の著者として知られるアントニー・ワイルド(Antony Wild)です。

そして、1991年に私がテイラーズ・オブ・ハロゲートのコーヒー・ディレクターとして、少量のコピ・ルアクを最初にヨーロッパに持ってきたとき、その反発的な魅力はマスコミや一般の人々に驚異的に働き、私の1キロのルアク・コーヒー豆はどこに行っても騒ぎを引き起こした。(And when, as coffee director of Taylors of Harrogate, I first brought a small amount of kopi luwak to the west in 1991, that repulsive charm worked wonders with the press and public, and my kilo of luwak beans caused a stir wherever I took it.)

Tony Wild(2014)"Civet cat coffee: can world's most expensive brew be made sustainably?",Guardian.

2003年には、アメリカの女性テレビ司会者オプラ・ウィンフリー(Oprah Winfrey)の『オプラ・ウィンフリー・ショー(The Oprah Winfrey Show)』で、コピ・ルアクが紹介されました。

この珍しいコーヒーを一躍有名としたのが、2008年に公開されたジャック・ニコルソン(Jack Nicolson)、モーガン・フリーマン(Morgan Freeman)主演の『最高の人生の見つけ方(原題:The Bucket List)』です。映画においては、2006年に公開された『カモメ食堂』でも取り上げられました。

知名度が高まるにつれて、この希少で珍しいコーヒーの需要が急増し始めました。野生のジャコウネコはあちこちに糞を落とすため予測がつかず、糞から取れるコーヒー豆は少量です。そのため、需要が多すぎて、供給が追いつくことができなかったのです。コピ・ルアクは非常に高価なコーヒーとして売られ、糞から金が生まれることから、現地農家はコピ・ルアク生産のためにジャコウネコを檻に閉じ込め、コーヒーチェリーを強制給餌し始めました。

"Is There Cruelty in Your Coffee?",PETA (People for the Ethical Treatment of Animals) 2013年10月3日.

やがて動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)(People for the Ethical Treatment of Animals)のような動物の権利団体が、このコーヒー生産が動物虐待にあたると、その残酷さについて消費者に周知するキャンペーンを開始しました。ヨーロッパにこのコーヒーを紹介したトニー・ワイルドは、コピ・ルアクの消費を避けるよう「カット・ザ・クラップ(Cut the Crap)」というキャンペーンを始めるまでに至りました。

しかし、コピ・ルアクは野生のジャコウネコから倫理的に調達された場合、地域社会に大きな利益をもたらします。野生のコピ・ルアクは現地農家の大きな収入源となるため、環境と動物の保護と現地農家の利益とをいかに共存させるかが課題となっています。

近年コピ・ルアクの知名と人気は非常に高まっていますが、森林破壊による野生ジャコウネコの減少や、偽物の横行などもあり、野生のコピ・ルアクは希少なものになっています。巷では、コピ・ルアクは世界一高価なコーヒーとして喧伝されることが多いですが、スペシャルティコーヒーのマイクロロットにはこれ以上に高価なコーヒーがあるために、これは時代遅れの情報と言えます。

コピ・ルアクとイスラム法

16世紀イスラム社会では、コーヒーが炭であるかどうかが法廷闘争となりました。イスラム教国であるインドネシアでは、2010年にこのコピ・ルアクを不浄なものとして禁止するシャリーア(イスラム法)が提案されましたが、却下されました。

 イスラム教国であるインドネシアではコピ・ルアクを不浄とみなし、信者がコピ・ルアクを飲むことを禁止するイスラム法が提案されたものの、同国のイスラム教最高機関は20日、この提案を却下した。

ジャコウネコのふんから世界最高級のコーヒー豆「コピ・ルアク」」,AFPBB News 2010年7月24日.

ジャコウネコとコーヒー

ジャコウネコ科は、インドネシアの他にも、フィリピンやアフリカ大陸、ユーラシア大陸に広く分布しており、フィリピンやインドにおいても、シベット・コーヒー(Civet Coffee)として生産されています。また、エチオピアにおけるジャコウネコのコーヒーの伝承に関する文献も残されています。

ルアクコーヒー文献まとめ:https://togetter.com/li/555532

ルアクコーヒー(ジャコウネコの糞のやつ)についてy_tambeさんツイートまとめ:https://togetter.com/li/554911

品種

コピ・ルアクはジャコウネコがコーヒーチェリーを食べた後の糞から集められるコーヒーであるため、品種は無関係です。

精製方法

ジャコウネコ

コーヒーチェリーは収穫された後、通常は人工的に精製されます。しかし、コピ・ルアクはジャコウネコの体内を通ることによって精製されます。野生のジャコウネコは、完熟した品質の良いコーヒーチェリーしか食べないために、その体内で処理され排泄されたコーヒー豆は、ジャコウネコの腸内の消化酵素や腸内細菌の働きによって発酵し、独特の香味を帯びた高品質のコーヒー豆に仕上がります。

コーヒーチェリーの種子の部分にあたるコーヒー豆は、消化されずにそのまま糞と一緒に排出されますが、コーヒー豆はパーチメント(内果皮)に覆われているため、豆自体は糞と接しておらず綺麗な状態のままです。糞とともに排出されたコーヒー豆は、綺麗に洗浄され、天日で乾燥されコーヒー豆として出荷されます。ジャコウネコの消化過程で、消化酵素や腸内細菌がコーヒー豆に作用し、独特の複雑な香りを生むとされています。

スマトラ島では、湿度が非常に高く、乾式精製を行うことが困難だったため、通常「スマトラ式」と呼ばれる独特の精製方法を用いて精製されます。スマトラ式では、生豆の水分状態が非常に高い状態で脱穀しますが、コピ・ルアクは一般的な精製方法と同じように、パーチメント(内果皮)の状態で水分量10数%まで乾燥させ脱穀します。

動物の体内を通して精製するコーヒーには、猿の糞から作られるモンキー・コーヒー(Monkey Coffee)、タイの象の糞から作られるブラック・アイボリー(Black Ivory)、ジャクーの糞から作られるジャクー・バード・コーヒー(Jacu Bird Coffee)などがあります。

 気になるその味と香りですが、ジャコウネコの体を通過したからと言って、別に麝香や霊猫香の匂いがつくわけではありません。ただし、ジャコウネコの腸内微生物による発酵が独特の香味を生むと言われています。商品ごとにばらつきが大きくて一概には言えないのですが、全体として苦味が少なく、浅煎りで飲まれることが多く、柔らかな酸味とオレンジのような香り、そして生のナッツを思わせる、少しクセにある香りがあります。深煎りにするとこれらの特徴は薄れ、カカオのような香味に変化します。ただ、いずれも果肉を強めに発酵させるタイプのコーヒーにはときどき見られる香味なので、どこまでコピ・ルアク固有の特徴と言っていいか、よくわからないのが本音です。

旦部 幸博(2017)『珈琲の世界史』,講談社現代新書.p34

コピ・ルアクは、ジャコウネコの消化過程を通して生まれる独特の複雑なフレーバーが特徴です。糞のコーヒーのイメージに反して、非常にクリーンな味わいです。

コピ・ルアク(Kopi Lowak):https://real-coffee.net/category/coffee-origin/southeast-asia/indonesia/kopi-luwak

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