鳥目散 帰山人と大坊 勝次
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鳥目散 帰山人と大坊 勝次

珈琲豆の会話

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左 鳥目散 帰山人 中央 篠田 康雄 右 大坊 勝次 奥 大坊 惠子 出典:7.0

先ほどまで降っていた雨の残り香を楽しんでいる様でもあり、…

鳥目散 帰山人 「日本珈琲狂会」主宰 「雨の残り香」,大坊 勝次(2014)『大坊珈琲店』,誠文堂新光社p.192-193

2012年6月22日、「大坊珈琲店」の大坊 勝次(だいぼう かつじ)から鳥目散 帰山人(とりめちる きさんじん)へ「赤の紫陽花/青の紫陽花」と題された珈琲豆が届けられた。

2012年8月2日、「大坊珈琲店」の大坊から帰山人へ珈琲豆が届けられた。そこに同封された葉書には「かなかな」の題。2012年9月28日、帰山人がコロンビアを持参して「大坊珈琲店」を訪れた。

2013年5月3日、「大坊珈琲店」の大坊から帰山人へ珈琲豆が届けられた。同封の葉書に「薫風」の題。2013年6月8日、帰山人が「大坊珈琲店」を訪れ、ブレンド豆を預けた。

2013年8月12日、「大坊珈琲店」の大坊から帰山人へ珈琲豆が届けられた。同封の葉書に「蝉時雨」の題。

大坊から帰山人へ贈られるコーヒー豆には、一言添えた葉書が同封される。

「蝉時雨」が届いて3日後の2013年8月15日、今度は「大坊珈琲店」から帰山人へ葉書のみが届けられた。それは「大坊珈琲店」の閉店を知らせる葉書だった。

閉業前に最後の訪店、大坊勝次氏の「今生のお別れ?」に思わず「何でですか!」(笑)。ブレンドの1番を淹れ、私が持参したコーヒーを淹れ、釜を廻しつつ飲み比べる大坊さん、煙草を喫しながら飲み比べる私、2人で品評しながら論議を交わす…通例の楽しき時間、穏やかな惜別の時間。今般のコーヒーは、甘く軽やかではあるが少し旧い苦みを感じた。

あしたのJCS 前篇」,帰山人の珈琲漫考 2013年12月3日.

コーヒー愛好家は味にも好みにもうるさく、コーヒー愛好家への贈り物にコーヒーは向かないが、互いをよく知る二人はコーヒー豆を贈り合い、味わい比べる。それは本当に楽しいものである。

深煎り好みの手廻し釜を使う仲間として、時々に送られて送り返す珈琲豆で会話することは本当に楽しいものです。

大坊さんの所感」,帰山人の珈琲遊戯 2017年4月2日.

2013年12月23日、「大坊珈琲店」はビルの取り壊しによって約38年の歴史に幕を閉じた。

「大坊珈琲店」の閉店時、限定1000部の私家本が出版された。2014年7月18日、この私家本を改訂した『大坊珈琲店』が出版された。

2014年7月17日の帰山人の珈琲漫考「コーヒー本で見舞う」で、帰山人は『大坊珈琲店』の復刊に触れた。

「タチ、タチ、タチ。コロコロコロ。ツーツーコロコロ」…大坊氏のコーヒーは、時には豪雨、また煙雨の時もあるが、味わうべきは「雨の残り香」?

コーヒー本で見舞う」,帰山人の珈琲漫考 2014年7月17日.

「雨の残り香」を楽しんでいるのは、大坊 勝次である。

鳥目散 帰山人と大坊 勝次

帰山人と大坊が初めて会ったのがいつなのかは定かではない。

帰山人は、まだ小学生だった1975年頃、José. 川島 良彰(ホセ かわしま よしあき)の実家「コーヒー乃川島」で美味しいコーヒーの味を覚え、「珈琲狂」の道を歩み始めた。静岡大学人文学部人文学科に1982年に入学、1986年に卒業した。

2009年1月1日、帰山人は自らのブログ、「帰山人の珈琲漫考」を開始した。最初の投稿は「珈琲」に関することではなく、「マラソン」に関することである。

帰山人は自らの誕生日であり、婚姻記念日でもある2010年2月6日、日本珈琲狂会(CLCJ)(Coffee Lunatic Club of Japan)を発足させ、2010年10月1日、日本コモディティコーヒー協会(CCAJ)(Commodity Coffee Association of Japan)を創設した。

2017年2月1日、フレーバーコーヒーの「週刊フレーバー・帰山人さんと珈琲対談」で、帰山人の珈琲遊戯の珈琲豆の販売が予告された。

大坊は、1947年岩手県盛岡市に生まれた。元々銀行員であったが、1972年に長畑 駿一郎(ながはた しゅんいちろう)の「だいろ珈琲店」に入店、約一年修行した。その後、1975年に東京都港区南青山のビル2階に「大坊珈琲店」を開店した。

大坊は、朝7時にお店に行き、9時に開店、12時までは客のいる中でも焙煎。お昼休み後、午後からは豆のハンドピック(ハンドソーティング)、テイスティング。テイスティングした結果によって、閉店までにブレンドを終える。

「大坊珈琲店」は青山という街の混沌の中に店を構え、その混沌を受け入れようと年中無休で営業した。東京の中心から見た周縁に位置する青山という街には、作家、演劇家、華道家など様々な文化人が立ち寄った。

大坊は、「日本珈琲狂会」の会員でもある。「富士珈機 東京支店 セミナールーム」で催される「日本コーヒー文化学会 焙煎・抽出委員会」の催事では、二人はペアを組んで焙煎する。

帰山人と大坊の二人に共通しているのは「遊びの仕掛け」である。

大坊珈琲店の‘洗練’も‘寛寛’も、開店当初はもとより8年を経ても、《歴史も姿勢もかなり異なった》類の‘奇矯’であり‘狂逸’であった。つまり、もしも「こんなコーヒー屋に自分もなりたい」のであれば、まずは《遊びの仕掛け》が本質であって、積年による貫禄なんぞは周囲が勝手に熱を吹いただけ。‘大坊珈琲店’は最初から‘大坊珈琲店’だったのである。

ひどく熱い」,帰山人の珈琲漫考 2014年1月28日.

「雨の残り香」

「大坊珈琲店」の閉店後、帰山人は大坊の自宅へ向かう。2014年3月8日2015年6月6日2016年9月13日、すべて日本コーヒー文化学会(JCS)の焙煎・抽出委員会による分科会の催事に参加するために、帰山人が東京を訪ねた折のことである。

2015年5月30日、帰山人は「『大坊珈琲の時間』を楽しむ会」を訪れた。

2015年7月某日、大坊から帰山人へ珈琲豆が届けられた。そこに同封された葉書には「あぢさい」の題。2015年8月某日、帰山人から大坊へブレンド豆「一味秋爽」が贈られた。

2017年3月27日、帰山人の珈琲遊戯から対「大坊勝次」用のブレンド豆「繁香清明」(はんこうせいめい)が限定販売された。2017年4月2日、大坊から帰山人へ「繁香清明」の所感が記された手紙が届けられた。

2017年6月9日、帰山人の珈琲遊戯から、バニーイスマイリとヤンニハラールとサンイルガチェフェの3つのモカをブレンドした珈琲豆「モカへの扉」の発売が予告された。このブレンドに使用されたヤンニハラールが、帰山人から大坊へと贈られた。

大坊による「ヤンニハラール」の所感 「週刊フレーバー・帰山人さんと語ろう」,
flavorcoffeeフレーバー放送局 2017年6月14日.

2017年8月2日、大坊から帰山人へ珈琲豆が届けられた。

2018年5月29日、大坊から帰山人へ珈琲豆が届けられ、帰山人の珈琲遊戯から対「大坊勝次」用の深煎りブレンド「オルテンシア」が販売された。

2018年6月2日、表参道の山陽堂書店「一日大坊珈琲店」が開かれた。また2018年8月18日、「ギャルリ百草」で催事「大坊珈琲店 in 百草」が催され、両イベントに帰山人が訪れた。大坊と「珈琲 美美」の森光 宗男(もりみつ むねお)の対談集『珈琲屋』の出版記念イベントでもあった。

2018年10月2日、帰山人の珈琲遊戯から対「大坊勝次」用の深煎りブレンド「秋暁観楓」(しゅうぎょうかんぷう)が販売された。

2019年2月23日、大坊から帰山人へ珈琲豆が届けられた。葉書が同封されていたかどうかは知らないが、それは「雨水(うすい)のコーヒー」か。

薄(うす)いコーヒーでもなければ、雨水(あまみず)で淹れたコーヒーでもない。雨水(うすい)のコーヒー。

雨水の珈琲の香(か)浮き浮きと喫(の)む

雨水のコーヒー」,帰山人の珈琲漫考 2019年3月2日.

2019年5月14日、大坊の新刊『大坊珈琲店のマニュアル』が出版された。2019年5月31日に『大坊珈琲店のマニュアル』に関する帰山人のブログ記事、帰山人の珈琲漫考『ここか?ここか!』が投稿され、2019年6月6日には、本の出版を記念してかどうか知らないが、帰山人の珈琲遊戯から対「大坊勝次」用の深煎りブレンド「みずいろの雨」が販売された。

この珈琲豆は大坊に送られ、感想の手紙が帰山人に送られた。

大坊による感想は「甘みが甘い!!」、「甘みが丸くて、ちょっと濃くて、柔らかくて、結局言いたいのは気品のある甘み」。

甘み対苦み、甘み対酸み、どちらが多いか少ないか、どちらが強いか弱いか、甘みの中に包まれて苦みがあるか、酸みも甘みの中に含まれるようにあるか、溶け合うように一体になっているか、それぞれがあることを主張していないか。主張しているのである。ここか? ここか! もう一歩深くして、ここまで! それが新しい『大坊珈琲店のマニュアル』(2019)なのだろう。

ここか?ここか!」,帰山人の珈琲漫考 2019年5月31日.

大坊 (前略)私が目指したのは、甘みが苦みに勝つような苦甘のコーヒーで、出来上がりの温度が、口の中の皮膚に触れたときに、抵抗がなるたけ少なくてそっと触れるくらいが理想です。苦みを少しでも和らげるために抽出温度をぐっと低くして、粗挽きにして、一滴一滴、時間をかけて抽出します。そうして甘みが多く感じられるようなコーヒーを作ってきました。

大坊 勝次 森光 宗男(2018)『珈琲屋』.新潮社,p48

深煎りネルドリップ

大坊のネルドリップ 「FUJI 手廻しロースター」,1955discovery 2017年8月28日

帰山人も大坊も、深煎りネルドリップ派である。一滴一滴、ゆっくりと時間をかけて抽出する。

ウィリアム・H・ユーカーズ (William H. Ukers)の『オール・アバウト・コーヒー』(原題:ALL ABOUT COFFEE)によると、ネルドリップの歴史は1763年に遡る。

About 1760, French inventors began to devote themselves to improvements in coffee-making devices. Donmartin, a Paris tinsmith, in 1763, invented an urn pot that employed a flannel sack for infusing.

William Harrison Ukers(1935)"ALL ABOUT COFFEE",Second Edition, p580.

この「ドンマルタンのポット」は浸漬と透過が混ざった形であったが、「ドゥ=ベロワのポット」によって透過式の抽出法が確立する。コーヒーは浸漬法から透過式へ、煮出すあるいは浸出する文化から濾す文化へと変化した。

特に日本では、ネルによって一杯づつ丁寧に抽出する方法が独自の進化を遂げ、「深煎りネルドリップ」文化が生まれた。

大坊がこのネルドリップ抽出に魅せられたのは、東京都銀座、関口 一郎(せきぐち いちろう)の「カフェ・ド・ランブル」で、このお店のネルドリップを見たときからである。ランブルのネルドリップは、まさに細い糸のような湯でゆっくり抽出する大坊の抽出の原点だった。

ネルドリップの名店と言われたお店には、「カフェ・ド・ランブル」の他に、東京都吉祥寺、標 交紀(しめぎ ゆきとし)の「もか」がある。後に「東の大坊、西の森光」と呼ばれることとなる大坊と森光は、若かりし頃「もか」で出会っている。

「大坊勝次さん『珈琲屋』インタビュー 森光さんのこと」,新潮社 2018年6月8日

大坊の抽出は、カウンターに対して少し斜めに立つ。前後に軽く足を開いて重心移動を楽にし、まっすぐすーっと立つ。大坊は一筋の線のような湯を落とす。

大坊は、多めのグラム数で、少量の濃厚なエキスを抽出するために、コーヒー豆を粗挽きにし、お湯の温度が80℃前後と低めに設定し、ゆっくりゆっくり丁寧に湯を落とす。この場合、新鮮なコーヒー豆を淹れたときに見られる泡はあまり見られない。フィルターの中に湯溜まりを作らず、できるだけ湯が流れるようにする。

大坊 ああ、うちのコーヒーも泡が立ちません。むしろできるだけ泡を立てないように「タチ、タチ、タチ」と一滴一滴、ゆっくりと湯を粉に置くようなイメージで注ぐやり方です。湯の温度も80℃前後ですし、森光さんの抽出のように泡が立つことはありません。

大坊 勝次 森光 宗男(2018)『珈琲屋』.新潮社,p.133-134

帰山人も大坊と同様に「深煎りネルドリップ」派であるが、二人の抽出法は似て非なるものである。

ともあれ「深煎りネルドリップ」は、非常に濃厚だが、人肌程度の温度のとても飲みやすい、甘味と苦味が口の中に空間を生み出すような柔らかい味わいを生み出す。

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色彩と味覚の協和と不協和

熊谷守一『雨滴』

木の板に、のっぺりと黄土色が塗られています。そこに白い雨粒がポツポツと落ちていきます。大地と触れ合い、ぶつかると、赤い輪郭の波紋が広がります。守一がこの絵で使用した色はわずかです。守一の目は、雨粒が落ちるその一瞬を、的確に捉え、わずかな色で見事に表現したのです。

熊谷 守一「雨滴」, KIRIN~美の巨人たち~

森光 雑味は、音楽の和声学でいえば不協和音にあたります。これをゲーテの色彩学で見ていくとする。ゲーテの色の世界を描いた独楽(こま)を回すと、赤や青や黄やいろんな色が全部混ざって不思議だけど、黄土色になる。ということは、この黄土色を背景に持ってくれば、色彩の不協和も解決するというふうに考えてもおかしくないと思うんだ。

大坊 勝次 森光 宗男(2018)『珈琲屋』.新潮社,p.136

森光によると、味覚において熊谷 守一(くまがい もりかず)の黄土色にあたるものは渋味である。渋みを甘味に変わるところで初めて、風味豊かな余韻が生まれる。

学んだことを例にあげれば、敬愛する画家

熊谷守一の作品に「雨滴」がある。その

輪郭線は生命のリズムを思わせ、くり返す

形はメロディとなり情景を表現する。

色彩が調和し、雨音のカノンを聴いている

ようだ。

芸術家は見えないモノを見える様にできる。

絵画の形と色は音楽にも似ているが

味覚にも通じる。

珈琲の苦味、甘味、酸味、隠れている渋味

があいまって至福の一杯を奏でる

大坊 勝次 森光 宗男(2018)「対談を終えて」,『珈琲屋』.新潮社,

不協音程は協和音程への解決を目指し、不安定さから来る緊張を解く。しかし、十二平均律の協和音程は完全な協和ではなく、十二平均律は和音に濁りが生じる。

十二平均律は1オクターブを12の平等な音程に分解したものを半音と定めることを基礎とした。このことで純正律の欠点を乗り越えたが、各半音の振動数の比は12乗して2になる数、2の12乗根という無理数になるため、どんな調のどんな和音を演奏しても完全な協和を得ることができない。

 どうしてそこまで深煎りにするかといいますと、7のポイントのあたりで、甘みが生じるからです。私の焙煎はこの甘みを引き出すための焙煎なのです。しかしここまで深煎りにすると、苦みが出てきます。深煎りによる苦みは、7のポイントあたりから増してきて、7.10のあたりから急に増えます。(中略)

 しかし、7.00から7.10と一歩踏み込んで焙煎していくところに、より濃厚な甘みが発生するのです。

大坊 勝次(2019)『大坊珈琲店のマニュアル』,誠文堂新光社.p.48

大坊は酸味が<0>になる深煎りのポイントに<7>という数字を置き、ここから焙煎をさらに踏み込むと甘味が生じる。大坊の焙煎は、酸味がゼロになるときに生じる甘さを引き出す。

大坊の求める<7>という完全な協和音程を探し求める限り、大坊の求めるコーヒーは完成しない。

今般に私が催事用につくった「きゅうぶんのろくじゅうにブレンド」には2つの意味がある。62を9で割ると6.88888……という無限の循環小数になる。だから1つには、10周年を経たコクウ珈琲が今後もこの循環小数のように永らく続くように。もう1つには、大坊さんの《火を早め早めに小さくしていく工夫》に抗して、火力を一定に焙煎してもなお《甘みがよく感じられる味を作る》ために。大坊さんが《酸みが少しだけ残るポイントを探し》続ける限り、それは「7.0」よりごく僅かに小さな数字のポイントを求めることになるだろう。しかし、それを6.99999……という無限の循環小数で表したとき、「きゅうぶんのろくじゅうさん」と言い表すには躊躇が生ずる。63を9で割ると7という整数の商になってしまう。6.99999……という無限の循環小数と「7.0」は数学的には同値なのである。だから、大坊さんが求めるコーヒーは永久に完成しない。私は私の《苦みの少なくなるポイントを探し、酸みが少しだけ残るポイントを探し、甘みがよく感じられる味を作る》、それを大坊勝次氏とは異なる手段で示すコーヒーが「きゅうぶんのろくじゅうにブレンド」である。

7.0」,帰山人の珈琲漫考 2019年11月18日.

大坊の方法論によるコーヒーを、帰山人は循環小数の有理数で示す。限定された純正律の和音は美しく響く。

だからといって、コーヒーの余韻を森光宗男さんのように叙情に寄って語ろうとは思わない。コーヒーはコーヒーであって、音楽でも絵画でもない。焙煎の意図も技法も、抽出液の香味の‘余韻’さえも、私にとっては叙事の積み重ねでしかないのだから。

余韻の焙煎」,帰山人の珈琲漫考 2018年11月13日.

2019年11月25日、大坊から帰山人へ珈琲豆が届けられた。そこに同封された葉書には「冬の雨」の題。

紅葉を観た2日後、黄葉を観る5日前、大坊勝次から珈琲豆が送られてきた。同封の手紙には、《一筆計(ママ)上 冬の雨 (略) もしかしたら、これ、山人に自慢してもいい味かな?と思ってしまった。アハハ。 62/9(きゅうぶんのろくじゅうに) 63/9(きゅうぶんのろくじゅうさん) どちらでもよろしい…》と記されていた。そのブレンドコーヒーをネルで濃く淹れて飲んだ。なるほど、甘みは先般の催事の時と同じくらい甘く、苦みは少し強く、酸みも少し強く、私好みの《どちらでもよろしい》美味だった。「冬の雨」だ。アハハ。やりやがったな。…「どうして川は流れるのだろう?」と想ったが、答えはわからなかった。

川は流れる」,帰山人の珈琲漫考 2019年12月1日.

叙情に寄らず、叙事を語ろう。

「どうして川は流れるのだろう?」

それは雨が降るからではないか。

きゅうぶんのろくじゅうに

コクウ珈琲10周年記念「7.0」

2019年11月16日、岐阜県美濃加茂市の「コクウ珈琲」で、「コクウ珈琲」10周年の催事「7.0」が催され、帰山人と大坊、そして「コクウ珈琲」の篠田 康雄(しのだ やすお)が一堂に会した。2019年11月18日、帰山人の珈琲漫考に「7.0」(ななてんれい)が投稿された。

この催事のために、版画家である小川 友美(おがわ ともみ)によって版画『ネルドリップの花』が制作された。篠田は現代アートのディレクターでもある。

実は、大坊さんのコーヒーに限らず、深煎りとネルドリップを標榜する日本の自家焙煎コーヒー店のコーヒーには、概して感性による抽象の表現がつきまとう。

大坊珈琲の時間 贅言」,帰山人の珈琲漫考 2015年6月2日.

2019年11月21日、帰山人の珈琲遊戯で、「7.0」を機に生み出されたスペシャル深煎りブレンド珈琲豆「きゅうぶんのろくじゅうに」が販売された。

きゅうぶんのろくじゅうに

きゅうぶんのろくじゅうに

コクウ珈琲10周年記念の催事「7.0」の

feat.大坊勝次を機に生み出された

スペシャル深煎りブレンド珈琲豆です。(中略)

なぜ「きゅうぶんのろくじゅうに」なのか?

大坊勝次氏の独自の用語に、焙煎度合いを示す

「7.0」(ななてんれい)があります。苦甘味の要素が

膨らんで酸味の要素が消えるポイントが、「7.0」。

コクウ珈琲10周年の催事は、この「7.0」を題にして

大坊勝次氏を招いて集ったわけです。その際、

帰山人の珈琲遊戯は、苦甘くて酸味の要素が少し

残る度合いで深煎りブレンドを記念につくりました。

狙ったポイントは「6.888888…」(ろくてんはちドット)。

この循環小数の焙煎度合いを分数であらわすと

「62/9」(きゅうぶんのろくじゅうに)なります。

篠田康雄氏の「コクウ珈琲」が循環小数のように

今後も無限に続くように、そして、大坊さんに

寄ったり抗したりしながら、美味しいコーヒーへの

練磨が続くように…こうして珈琲豆は、

「きゅうぶんのろくじゅうに」と名付けられました。

大坊さんへも供して、催事でも販売した限定品を

皆さまにも味わっていただきたいと存じます。

フレーバー通販ページ

焙煎

【ブレンドの生豆と焙煎の仕立て】

グァテマラ共和国 オリエンテ地区

 エルトレオン SHB Q認証 ウォッシュト(湿式精製) 50%

ニカラグア共和国 マタガルパ地区

 リモンシリョ ブルボン ナチュラル(乾式精製) 25%

ブラジル連邦共和国 アルフェナス地区

 パッセイオ ブルボン パルプトナチュラル(半乾式精製) 25%

グァテマラを2釜、ニカラグアとブラジルを各1釜、計4釜の

すべてを直火の手廻し焙煎機で火力一定の「一本焼き」。

エルトレオン1釜目(20分45秒)、リモンシリョ(22分15秒)、

パッセイオ(21分10秒)、エルトレオン2釜目(20分55秒)

の順で僅かに焙煎度合いを深くしています。焙煎時間が

深さの順になっていないのは、各々の豆の持ち味、それを

どこまで引き出し、また抑えるのかを組み合わせて企図、

そのために4釜全てで僅かに火力設定を変えているから。

この深煎りブレンド珈琲豆は、大坊勝次氏のようにネルで

濃く淹れた液体を飲むことを前提に仕上げてあります。

実際にはペーパードリップなど、どう淹れようが自由では

ありますが、あくまで対大坊勝次用の仕様であることを

ご承知おきの上、各自で楽しんでください。ご笑味あれ。

フレーバー通販ページ

苦味があっても口にきつくならず、酸味があっても口に残らないポイントは、6.8から6.9のポイントにある。

この「きゅうぶんのろくじゅうに」は、帰山人の言葉を信じるなら「苦みの少なくなるポイントを探し、酸みが少しだけ残るポイントを探し、甘みがよく感じられる味」であるはずである。

大坊のレシピは、1番:30g 100cc 、2番:25g 100cc 、3番:20g 100cc 、4番:25g 50cc、5番:15g 150ccである。

100gでは、大坊のレシピをすべて試してみるには足らないが、帰山人が焙煎した他の豆(エク チュア)も使って、とにかくものは試しにやってみよう。

非常になめらかでまろやか、濃厚な液体感はすべてのレシピに共通している。柔らかい球体のような液体感は、1番や4番のような濃厚なレシピほど際立つ。

この焙煎度で少しだけ残る酸味が感じられるレシピは、特に5番である。苦味が少なく、酸味がわずかに感じられるが、柔らかい球体のような液体感は1番や4番のように強くはない。

しかしどのレシピも、濃厚だが苦味が立たず、「苦みが甘みに包まれるように」、口の中に空間を広げるような濃厚な苦甘が印象的なコーヒーである。

<参考>

帰山人の珈琲漫考<https://kisanjin.blog.fc2.com/>

帰山人の珈琲遊戯<https://www.kisanjin.coffee/>

大坊 勝次(2014)『大坊珈琲店』,誠文堂新光社.

大坊 勝次(2019)『大坊珈琲店のマニュアル』,誠文堂新光社.

大坊 勝次 森光 宗男(2018)『珈琲屋』,新潮社.

旦部 幸博(2016)『コーヒーの科学「おいしさ」はどこで生まれるのか』,講談社ブルーバックス.

William H. Ukers(1935)"ALL ABOUT COFFEE",Second Edition,

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