コスタリカ マイクロミル革命の経済的・社会的影響
コスタリカ マイクロミル革命の経済的・社会的影響
コスタリカは、1791年にアラビカ種コーヒーが導入されて以来、コーヒーの生産が政府によって強く奨励され、コーヒー栽培を始めたい人々には無償で土地が提供された。1821年、コスタリカはスペインからの独立し、この年にコスタリカのコーヒーが初めてヨーロッパに出荷された。
1821年から1950年までは、コスタリカ黄金時代と呼ばれ、コーヒーの生産量が爆発的に増加した。コーヒーは経済を支える「モータークロップ」であり、やがてコスタリカの主要な輸出品となった。国の近代化が始まり、鉄道、学校、病院などのインフラが整備された。経済は成長し、コーヒーは国の社会的アイデンティティを形成し、文化の一部となった。
コスタリカのコーヒー生産は、当時(そして現在も)非常に多くの小規模な生産者で構成され、その収穫物は加工業者や輸出業者に販売された。コーヒー産業が大きく発展する中で、一部の輸出業者が大きな力を持ち、裕福なコーヒー会社の寡頭制が形成された。やがて、これらの寡頭勢力は権力を濫用するようになり、小規模なコーヒー生産者を処罰の対象とした。輸出業者は利益を最大化するために、生産者への支払いをどんどん減らしていき、生産者は経済的に持続可能でない状態に置かれ、社会的地位も低下した。
1933年、大規模な輸出企業から生産者を守るために、コスタリカコーヒー研究所(ICAFE)(Instituto Del Café)が設立された。コスタリカコーヒー研究所(ICAFE)は、コスタリカのコーヒー産業におけるすべての利害関係者を規制する、政府が一部管理する機関である。1950年代、コスタリカで最初の「コーヒー革命」が起きた。それは協同組合の登場である。生産者を管理するこの組織は、組合員の声を集約し、有力なバイヤーや輸出業者に対して力を与える存在となり、やがて全国に52から55の協同組合が誕生した。これは、自分たちの作物の価格設定をコントロールできなかった生産者に安心感を与えるものだった。
国際市場でのコーヒーの需要が高まるにつれ、生産者や輸出業者は、その需要に対応するために生産量を最大化し、収益を上げようとした。2000年に入り、国際市場でのコーヒー価格が急落し、コスタリカの輸出産業は大きな打撃を受けた。コーヒーの市場価格に対して無力な生産者たちは、苦境に立たされた。
コスタリカのコーヒー業界では、このコーヒー危機を契機に、第二のコーヒー革命、いわゆる「マイクロミル革命(Micromill Revolution)」が起こった。生産者たちは、自分たちの商品をコントロールする力を取り戻したいと考え、自分たちでチェリーを精製し、加工・輸出の中間業者や協同組合を介さずにバイヤーに直接コーヒーを販売できるような設備に投資するようになった。量ではなく質にこだわることで、これらの小規模業者はより高い価格でコーヒーを販売することができるようなった。
国際市場で高品質でユニークな商品への需要が高まる中、マイクロミルのコーヒー生産者の数は、わずか15年で0から150まで増えた。自分で栽培したコーヒーを自分で精製することにより、生産者は商品の品質を保証することができ、サプライチェーンの中でより強い地位を得ることができる。追跡可能で高品質でユニークな商品は、顧客にとって魅力的なものとなる。
従来のコーヒー生産では、生産者はチェリーを収穫した後、協同組合や多国籍企業が運営するベネフィシオと呼ばれる精製所に販売する。そこで加工されたコーヒーは、さらに国際市場で販売される。従来のベネフィシオでは、多くの異なる生産者の豆を均質化し、1つのブレンドにして市場に販売している。国内には、約100のベネフィシオが存在する。これらのベネフィシオは、民間企業(31%)、国際企業(30%)、協同組合(39%)によって運営されている。生産者は収穫後24時間以内にチェリーを届け、コーヒーの初期前金を受け取る。ベネフィシオは市場価格に従ってコーヒーを加工・販売する。その後、生産者は収穫から約1年後に最終的な代金を受け取る。この最終的な支払いは、コーヒーの市場価格の変動に完全に依存する。
一方、マイクロミルでのコーヒー生産は、すべての加工を自分で行うということを意味する。マイクロミルの生産者は、コーヒーに対する全責任とコントロールを持ち、生豆を販売するまでのコーヒー生産のすべての段階を行う。そのため、生産段階での作業量、コーヒーに対する責任、管理を自分で引き受け、バイヤーや輸出業者を自分で探さなければならない。マイクロミルの生産者は、バイヤーに直接販売するか、輸出業者を経由して販売するかを決めることができる。輸出業者が仲介することで、従来の生産・販売とは異なり、仲介業者の数を制限することができる。
この生産構造を採用することで、生産者は全く異なる方法で品質を確保できるため、より多くの利益を得ることができる。また、生産者は自分たちのブランドを代表しているため、自分たちを差別化し、スペシャルティコーヒー市場で競争することができる。地理的な差別化はもとより、標高、品種、精製技術なども、マイクロミル・コーヒーが顧客の要求を満たすための重要な要素である。
生産者が従来のコーヒー生産と協同組合や多国籍企業から離れ、自分たちのマイクロミルを立ち上げようとする最大の理由は、より多くの収入を得るためである。しかし、生産者は、経済性の向上はマイクロミル事業を継続する主な理由ではなく、社会的な影響こそが最も重要であると述べている。以下に、アンナ・グンネロード(Anna Gunneröd)とファビアン・ハッセ(Fabian Hasse)によるフィールドスタディ「マイクロミル革命ーマイクロ生産戦略を実施した場合のコーヒー生産者の経済的・社会的影響を調査したフィールドスタディ(The micro mill revolution - A field study investigating the economic and social impacts for coffee producers when implementing a micro production strategy)」の、マイクロミル革命が生産者に与えた経済的・社会的影響に関する調査結果を紹介する。
経済的影響
調査に協力した12人の生産者全員が、間違いなく以前より経済的に豊かになったと主張した。このことは、すべての利害関係者が認める事実である。生産者は自分たちの商品を完全にコントロールできるようになり、買い手に対してより高い品質を保証できるようになった。その結果、新しい市場、つまりスペシャルティコーヒーの高品質な市場に参入することができ、協同組合から受け取っていた代金よりもはるかに優れた代金を得ることができるようになった。
しかし、生産者の多くは、初期に直面した困難を指摘している。コーヒーの精製加工の経験が少ないため、生産能力をフルに発揮することが難しく、多くの生産者は最初の数年間は生産量が激減したと述べている。3年以上経過した生産者は、経済的に安定し、現在ではより良い経済状況であると述べている。3年未満の生産者は、経済状況が厳しかったことを認めつつも、「今はずっといい状態だ」と述べている。
スタートアップの費用と必要な投資は、ミル、乾燥ベッド、パティオ、乾燥機、選別機などの機械や道具一式で、以前は協同組合が行っていたすべての工程を行うことができるようにすることだった。生産者の大半は、銀行から融資を受けることを余儀なくされた。しかし、経済的に信頼できる方法でコーヒーを扱うためには、リスクを取る価値があると彼らは述べている。また、マイクロミルを始めるにあたり、コスタリカコーヒー研究所(ICAFE)から支援を受けたという生産者は1名のみであった。コスタリカコーヒー研究所(ICAFE)は、マイクロミルの生産者がより多くの収入を得ることができ、より良い暮らしができることを確認しているが、1人を除くすべての生産者によると、コスタリカコーヒー研究所(ICAFE)はいかなる形でも彼らを支援していない。
最近のマイクロミルは、中古の機械が手に入りやすくなり、必要な機械に投資することが容易になった。生産工程が増えたことで、生産コストはすべての生産者が上昇している。生産者の多くは、マイクロミルによって、以前は不可能だった農園への投資の機会と能力を得たことを強調した。
社会的影響
一方、幸福度については、1人を除くすべての生産者が、マイクロミル事業による労働量の増加、困難な作業、1日の労働時間の増加、ストレスを感じていると回答している。従来型生産の場合、労働時間は収穫期には毎日午前8時から午後3時くらいまでだったが、マイクロミルの場合は、朝早くから夜遅くまで仕事が続く。生産者の中には、24時間365日働いているような感覚を持つ人もいる。
1年のうち何ヶ月かは、そのような時期があるが、コスタリカで最も古く、最も大きなマイクロミルであるラ・カンデリージャは、唯一の例外である。彼らは、従来のコーヒーを扱っていたときよりも、仕事量が少なく、ストレスも少ないと述べている。ラ・カンデリージャは非常に成功しており、長い間ビジネスを続けているため、家族のほとんどは管理業務に従事しているだけである。労働量の多さにストレスを感じている生産者たちは、マイクロミルがもたらすポジティブな影響に、その犠牲を払う価値があることを明確に指摘している。そんな中、まだ事業を始めて間もない生産者の中には、その犠牲を払う価値があるのかないのか、判断がつかない人もいる。
最も労働量が増えている生産者は、マイクロミルを始めたばかりか、マイクロミルを始めてから数年しか経っていない生産者である。6〜8年以上続いている古いマイクロミルは、マイクロミルを始めてから3~4年後に労働量が減少していると述べている。
生産者12人のうち3人は、労働量と労働時間によりストレスを感じており、買い手を見つけること、販売ルートを見つけることが困難であることを理由に、ストレスを感じている。すべてのコーヒーが売れると言いながらも、より高価で高級なコーヒーに代金を支払ってくれる適切なバイヤーを探さなければならない。マイクロミルの主な問題は、自分たちのコーヒーの市場と買い手を見つけることの困難さである。しかし、これらの生産者はすでにエクスクルーシブ・コーヒーズやカフェ・インポーツなどの輸出業者や直接のバイヤーと長期的な関係を築いているため、バイヤーを見つけることやコーヒーを販売ことに全くストレスを感じていない。こうしたことを、起業家精神の肯定的な側面として語る人がいる一方、コーヒーに対する責任が大きくなるため、リスクや不安もあると語る人もいる。
生産者12人のうち10人が、他の生産者との関係を「良好」または「以前と同じ」と述べた。そのうちの何人かは、他のマイクロミルとの関係を「家族」と表現している。生産者12人のうち2人は、ロス・サントス地域のコーヒーコミュニティは、マイクロミル革命が起こる前よりも悪くなっており、これは競争の激化によるものであると述べている。
「生産者間の競争は変わったか」という質問に対して、「他の生産者との競争は全くない」と述べた生産者が9人いた。この9人の生産者は、「スペシャルティコーヒーの需要があまりに大きい」と答えた。これは需要が指数関数的に急速に伸びているため、さらに多くのマイクロミルが設立される余地があることを表現している。
生産者に、マイクロミルを始めてから協同組合との関係に変化があったかどうかを尋ねた。ほとんどの人が「そうだ」と答えたが、その在り方はさまざまだった。中には、協同組合を辞めてからはまったく関係がないと答えた人もいた。何人かの生産者は、協同組合は今や自分たちの競争相手であると述べた。5人の生産者は、マイクロミルを競争相手として見ているのは協同組合であり、その逆ではないと主張した。また、同じ5人の生産者は、マイクロミルはターゲットグループが違うので、協同組合と競合することはないとも述べている。
生産者の何人かは、協同組合やその仕組みに対してほとんど信頼感を抱いていない。彼らは、汚職や選挙の際の操作について語ってくれた。また、他の生産者は、現在の協同組合との関係をひどいものだと言い切った。ある生産者は、「協同組合は生産者がコーヒーやコーヒー市場に関する知識を持つことを望んでいない、それは生産者が協同組合から足を洗うことになるからだ」と述べた。また、ある人は、「協同組合はあらゆる方法でマイクロミル業者を廃業に追い込もうとしている」と匿名で語った。マイクロミルを立ち上げた後に、協同組合を辞めるように手紙を受け取った人もいる。
生産者に、自分たちのビジネスに影響を与えるコスタリカコーヒー研究所(ICAFE)のルールや法律、規制に参加できているかどうかを尋ねると、4人の生産者は参加したくても参加する能力がまったくないと感じている。生産者は、コスタリカコーヒー研究所(ICAFE)に全生産量に応じた税金を払っているが、その見返りとして何の援助も受けられず、新しい規制にも参加できない。4人全員が、ルールは小規模生産者ではなく、大きな協同組合や企業にのみ適応されるものだと述べている。生産システムも仕事内容も大きく異なるため、生産者は自分たちの意見を述べ、意思決定プロセスに参加することを望んでいる。生産者の何人かは、マイクロミル業者がコミュニティを作ることを望んでいる。彼らは、コミュニティがこの問題を解決する方法だと考えている。彼らが言うように、マイクロミル業者が団結すれば、コスタリカコーヒー研究所(ICAFE)の意思決定プロセスにも参加しやすくなるはずである。
しかし、コスタリカコーヒー研究所(ICAFE)は生産者の参加について、異なる認識を持っている。「コスタリカコーヒー研究所(ICAFE)には全国8地域の代表からなる理事会があり、各地域の生産者が代表を選ぶので、民主主義が成立している。また、協同組合にも理事会があり、そこでも生産者が選挙に参加している」。
コスタリカコーヒー研究所(ICAFE)は、協同組合の組合員は年に一度の集会で新しい規則に参加できると主張する。しかし、協同組合の管理者を選ぶ際には、組合員に発言権はなく、理事会が選ぶことになる。一方、理事会は組合員によって選ばれる。前述のように、多くの生産者は選挙に懐疑的で、選挙は操作され、腐敗していると主張している。
生産者の多くは、将来的にはバイヤーに直接販売することで、より独立した存在になりたいと考えている。また、エクスクルーシブ・コーヒーズやカフェ・インポーツのような輸出業者のことを指して、最後の中間業者を排除したいと考えている。その理由は、より多くの収入を得るためではなく、バイヤーとより緊密で直接的な関係を築くためだと言う人もいる。バイヤーと直接的なコミュニケーションができれば、各バイヤーの要求を満たすことができる可能性が高くなるからだ。また、バイヤーとの直接的な関係を、より多くの収入を得るためのチャンスと考える生産者もいた。また、将来的にマイクロミルのコミュニティの一員になることを希望している生産者もいた。
生産者にインターネットやソーシャルメディアの利用について尋ねたところ、回答者全員から同様の回答があった。全員が、マイクロミルへの転換と協同組合からの脱退と同時期に、マーケティングや販売にインターネットを利用し始めた。中には、インターネットはマイクロミル事業がうまくいくための重要な要素だと考えている人もいる。